なぜ秘書官に長男起用?「岸田首相」2年目の危機 大型経済対策などで反転攻勢を狙うが不透明

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岸田首相周辺も「ここはとにかくじっと我慢だ。地道にやるべきことを1つひとつこなし、実績を積み重ねて行けば、これ以上の政権危機は回避できる」(側近)と期待をにじませるのが現状だ。

そうした中、政府が4日、岸田首相の長男で公設秘書の翔太郎氏(31)を、同日付で政務担当の首相秘書官に充てる人事を発表したことが、政界に波紋を広げた。「官邸内の人事の活性化と岸田事務所との連携強化」(官邸筋)が理由だが、「岸田首相自身が、秘書官の仕事ぶりや相互の連携などに不満を募らせた結果」(岸田派幹部)と指摘する向きもある。

政務担当の首相秘書官は、筆頭格の嶋田隆氏と岸田事務所の秘書だった山本高義氏が務めてきたが、山本氏は事務所に復帰する。

翔太郎氏は父親の岸田首相と起居を共にしており、「首相の本音を周囲に伝えることで、官邸での『チーム岸田』の強化を図る狙い」(最側近)があるとされる。だが、身内の起用が逆に、高級官僚ばかりの秘書官グループとの溝を広げる可能性もある。

そうした中、自民党内では「国民感覚とずれている」(閣僚経験者)との指摘が相次いだ。さらに野党側は「政治の私物化」(共産)「まさに身内びいき」(国民民主)などと厳しく批判した。

「官邸と自民党側の意思疎通不足」の指摘も

臨時国会の会期は12月10日までの69日間、与野党論戦の最初の舞台は5日から7日までの衆参両院本会議での各党代表質問だ。ただ、「代表質問は一方通行なので、本当の勝負の場は予算委質疑」(自民国対)となる。

ところが、論戦の政府側の主役となる岸田首相や鈴木俊一財務相、林芳正外相らは年末にかけて多くの外交日程を抱えており、「現状では補正予算など重要法案の審議日程は極めて窮屈」(自民国対)とされる。

案の上、4日の自民・立憲民主国対委員長会談では、鈴木財務相の外国出張を理由に、衆院予算委は17日からに先送りとなった。会談後、自民の高木毅・自民国対委員長は、来週11日以降の他の委員会審議も「なかなか難しい」と肩を落とした。

こうした結果も「官邸と自民党側の意思疎通不足が原因」(自民長老)との指摘が多い。それだけに岸田首相が反転攻勢の礎と位置付けた「正道」をきちんと歩めるかどうかは、なお不透明な要素ばかりだ。

早朝から突発した事態の対応に追いまくられた岸田首相は、4日午後7時過ぎ、ようやく政権1年を振り返ったが、「数十年に一度という大きな事態が次々起こり、向き合っている間に1年たってしまった」とうつろな表情で語るしかなかった。

泉 宏 政治ジャーナリスト

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いずみ ひろし / Hiroshi Izumi

1947年生まれ。時事通信社政治部記者として田中角栄首相の総理番で取材活動を始めて以来40年以上、永田町・霞が関で政治を見続けている。時事通信社政治部長、同社取締役編集担当を経て2009年から現職。幼少時から都心部に住み、半世紀以上も国会周辺を徘徊してきた。「生涯一記者」がモットー。

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