魚が日本で近年「出回らない、高い」残念な理由 メロの輸入量は1割未満、価格は10倍超に高騰

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もうひとつ気がかりなのが、マグロの今後である。すっかり食卓に並ばなくなったメロのように海外勢に”買い負け”するような事態にならないのだろうか。

「海外の需要が高まれば可能性はあります。ただし、メロと違いマグロは国内で水揚げされている魚種でもあり、また、クロマグロの場合、海外における需要が現状では高くない(クロマグロの消費はほとんどが日本)ため、激減することはないと思われます」(広報担当者)

当面は安泰のようである。とはいえ、油断は禁物だ。最近は高級和牛や高級日本酒をみても中国人の購入パワーはすさまじいものがある。今はまだ嗜好が向いていないクロマグロだって、いつ何時、彼らの好みの食材になるか分からない。資源の問題もあるが、5年後、10年後には買い負けで日本への輸入量が大幅に減るといった事態が起こらないとも限らない。

水産物に関して言えば、日本近海で水揚げされるもの、養殖しているもの以外は、将来的には中国や新興国に買い負けして輸入量が大幅に落ち込みかねないという大きな問題を抱えているわけだ。そしてサンマやサケなどは漁獲量減少・資源問題に直面している。やがて日本人にとっての魚料理は、近海モノの天然魚か養殖魚、そして淡水魚がメインとなる日が来るかもしれない。

獲るだけではない方法を模索

もちろん、こうした事態を国内の水産関係者が手をこまねいているわけではない。たとえば、マルハニチロはクロマグロをはじめ、ブリ、カンパチの完全養殖に取り組むほか、三菱商事とともに富山県でサーモンの陸上養殖事業を行う合弁会社の設立を発表(稼働は2025年度)するなど、水産物資源確保に力を入れている。

「1985年を境に天然由来の水産物の供給はほぼ頭打ちとなり、水産物需要の増加を支えているのはほぼ養殖生産の伸びによる状況となっています。当社は、海外グループ会社で行っている管理漁業の拡大、海面養殖事業の発展を基盤としたうえで、次世代の取り組みとしての育種研究、陸上養殖、代替タンパク質の研究開発などを行っています。さらなる将来に向けた方策として、培養魚肉事業の取り組みも行っています」(広報担当者)

獲る漁業から管理する漁業、育てる漁業、そして今後は育種、代替タンパク質、培養魚肉と水産物を巡る環境は大きく変貌しようとしている。おいしい天然魚を食卓で味わえる環境を長く維持し続けるためには、日本人が、もっと水産物に関心を持ち、環境整備や資源保護に意識を向けることが必要だろう。

山田 稔 ジャーナリスト

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やまだ みのる / Minoru Yamada

1960年生まれ。長野県出身。立命館大学卒業。日刊ゲンダイ編集部長、広告局次長を経て独立。編集工房レーヴ代表。経済、社会、地方関連記事を執筆。雑誌『ベストカー』に「数字の向こう側」を連載中。『酒と温泉を楽しむ!「B級」山歩き』『分煙社会のススメ。』(日本図書館協会選定図書)『驚きの日本一が「ふるさと」にあった』などの著作がある。編集工房レーヴのブログも執筆。最新刊は『60歳からの山と温泉』(世界書院)。

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