スノーピーク34歳社長「不倫辞任」は適正なのか 「経営者として」不適切な行為があったかが本質だ

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一方で、経営者の本質はその名の通り、「経営を行う者」である。

経営手腕の是非や、企業経営に関わる不祥事によって責任が追及されることは正当だ。汚職、ハラスメント、人種差別、性加害といった行為は言語道断である。アメリカではセクハラ防止の観点や社内の秩序を乱すなどという理由から、管理職以上の社員が上下関係にある従業員と恋愛が禁じられている企業がある。インテルやマクドナルドなどでCEOがそれを理由に解任されたケースはある。

ただ、不倫のような私的な問題によって経営者としての責任を問うべきかについては議論の余地があるだろう。アマゾンのジェフ・ベゾス、テスラのイーロン・マスクは大々的に不倫報道がされてきたが、それによってCEOを辞任するには至っていない。

不倫でなくても社内恋愛は許されず、私的な関係であれば不倫や浮気は許される――という基準は、日本人からすると奇異に見えるかもしれない。

アメリカにおいては、色恋沙汰に関して、経営者の責任が問われるのは、あくまでも「経営者として」不適切な行動を取ったのか否かという点に絞られ、私的な領域での事項はあくまでも私的な問題として解決すべきことと判断される。

「公私混同」と言うなら

日本企業が活力を失った要因として、「オーバーコンプライアンス(過剰法令順守)」が挙げられることも多い。

有能な経営者が私的なスキャンダルによって役職を追われてしまうことは、オーバーコンプライアンスに当たるのではないかと筆者は考える。

寛容性と厳格性はアクセルとブレーキのようなもので、両方をうまく使いこなすことで、社会は健全かつ効率的に回っていく。

コンプライアンスは重要だが、同時に寛容性も備えなければ、閉塞感に満ちた、活力に欠けた社会に陥ってしまう懸念がある。

「公私混同」という言葉があるが、経営者の公私混同を問題視するのであれば、彼らへの責任追及も、公の領域と私の領域を切り分けて行わなければフェアではない。山井梨沙氏に関しても、不倫という側面がクローズアップされ、それ自体を強烈に批判する向きもあるが、「経営者として不適切な行為があったのか否か?」という点が抜きにされているならば、本質から外れた議論になる。

西山 守 マーケティングコンサルタント、桜美林大学ビジネスマネジメント学群准教授

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にしやま まもる / Mamoru Nishiyama

1971年、鳥取県生まれ。大手広告会社に19年勤務。その後、マーケティングコンサルタントとして独立。2021年4月より桜美林大学ビジネスマネジメント学群准教授に就任。「東洋経済オンラインアワード2023」ニューウェーブ賞受賞。テレビ出演、メディア取材多数。著書に単著『話題を生み出す「しくみ」のつくり方』(宣伝会議)、共著『炎上に負けないクチコミ活用マーケティング』(彩流社)などがある。

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