1日3台、トヨタ燃料電池車"手作り"の現場 老舗工場で造られる最先端のクルマ

拡大
縮小

今年は年間700台、16年には2000台、17年には3000台まで生産を拡大する方針。1日にならすと10台強。この程度ならば自動化するほうがかえって高コストになる。通常のガソリン車より組立作業の手間はかかるものの、習熟すればさほど難しくはないという。ミライはすでに昨年12月から発売されており、初納車は今年1月に済ませている。これまで1日1台しか造れなかったが、つい最近になって1日3台まで造れるようになった。

むしろ難しいのは、水素と空気中の酸素を反応させる発電装置であるFCスタックだ。FCVの心臓部ともいえるFCスタックは、高分子電解膜を数百枚重ね合わせて造られている。これは元町工場から4キロほど離れた本社工場で生産されており、組立ラインと違って公開されていない。ミライの開発責任者である田中義和主査も、FCスタック生産の詳細は「ノーコメント」と口が堅かった。

よちよち歩きの状態

ミライのラインオフ式であいさつを行った豐田章男社長

今回、ラインオフ式に伴って公開されたミライの製造現場は組立工程のみ。トヨタではFCVの普及を後押しするため、単独で保有する燃料電池関連の全特許を無償で提供することを今年1月に発表している。だが、生産ではベールに包まれた部分が少なくない。

豊田社長はセレモニーで「今はまだ1日3台しか造れない。よちよち歩きの状態だが、創業の意志を引き継ぐこの地が、ミライを造り始める新たな挑戦の場としてふさわしい場所ではないかと思っている」と語った。今後、着実に生産台数を増やすことも重要だが、ほかの事業者も巻き込んで水素ステーションなどのインフラ整備も推し進めなければ、肝心の販売がついてこない。前例のない取り組みにはそこかしこに課題が横たわる。

老舗工場で産声を上げた、燃料電池車という最先端のクルマ。果たして今後、自動車業界でどれだけ存在感を高められるだろうか。

山田 雄大 東洋経済 コラムニスト

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やまだ たけひろ / Takehiro Yamada

1971年生まれ。1994年、上智大学経済学部卒、東洋経済新報社入社。『週刊東洋経済』編集部に在籍したこともあるが、記者生活の大半は業界担当の現場記者。情報通信やインターネット、電機、自動車、鉄鋼業界などを担当。日本証券アナリスト協会検定会員。2006年には同期の山田雄一郎記者との共著『トリックスター 「村上ファンド」4444億円の闇』(東洋経済新報社)を著す。社内に山田姓が多いため「たけひろ」ではなく「ゆうだい」と呼ばれる。

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