孤立出産した技能実習生が逮捕「日本の深い闇」 「妊娠を誰にも告げることができなかった」

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実習生と関係機関による契約書に、堂々と「妊娠禁止」の項目が設けられているケースもある。

私が過去に愛知県の縫製会社で働く実習生から入手した就業規則を記した書面には、ストライキや携帯電話の所持を禁止する項目と並び、次のような文言が記されていた。

〈研修期間は誰とも(外国人も同国人も含む)同居や結婚、妊娠を引き起こす行為をしてはならない〉

そんな権限を振り回すことじたいが恥ずかしくないのか。私は憤り以前に呆れるしかなかった。

雇用契約書に「恋愛禁止条項」

福井県で取材した中国人の女性実習生も、「男女交際」を理由に強制帰国を迫られた。

実習期間中、たまたま知り合った在日中国人男性と恋愛し、数回の外泊をしたことが問題視されたのである。

彼女は監理団体の担当者に呼び出され、詰問された。

――外泊をしたでしょう?

「はい。彼の家に泊まりました」

――男性と交際し、外泊するのは規則違反だって知っていますね? あなたは悪いことをしていると知っていながら外泊したの?

こうしたやりとりが数人の男性の前でおこなわれ、「プライバシーが丸裸にされたような気持ちになって、その場から逃げ出したかった」と彼女は私の取材に答えている。

彼女が私に見せてくれた雇用契約書にも、おそろしく気持ちを滅入らせるような言葉が並んでいた。一部を引用する。

・ 日本側の会社の許可を取らず、勝手に外出し情状酌量の余地なき者は即刻強制帰国、併せ賠償違約金50万円。
・ 期間中に恋愛をした者には先ず警告処分を与え、勧告を聞き入れない者には違約金20万円を収めさせ、第2回目の賠償違約金は50万円、併せ即刻強制帰国。
・期間中に妊娠した者は罰金80万円、即強制帰国、往復の航空運賃を自己負担する。

馬鹿馬鹿しいにもほどがあろう。中学生ならばともかく、実習生はすべてれっきとした成人だ。外泊も恋愛も、あるいは妊娠にしても、すべては自己責任の問題ではないか。しかもこうした契約書は実習生に詳しく中身を説明することもなく、なかば強制的にサインさせるといった乱暴な手法がまかり通っていた。実際、彼女も外泊を問題視された時に初めて「恋愛禁止条項」を知ったのである。

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ちなみに彼女は監理団体職員に無理やり空港に連れていかれ、中国行きの飛行機に乗せられそうになるが、事前に相談していた外国人支援団体に出国ゲートの手前で救出され、どうにか帰国を免れることはできた。

言うまでもないが、恋愛も妊娠も、禁ずる側こそが人権侵害で問われなければおかしい。ましてやそれを理由とした解雇など、労働法では認められていない。

だが、実習生が働く場所に、常識は腰を下ろさない。リンさんはそのことを知っている。だからこそ恐れた。借金を抱えて渡日したのに、期間満了前に帰されてしまえば、その後の人生はどうなるのか。

孤立出産に導いたのは、まぎれもなくこうした労働環境をつくり出した側である。

安田 浩一 ノンフィクションライター

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やすだ こういち / Koichi Yasuda

1964年生まれ。週刊誌記者などを経て2001年よりフリーに。著書に『ルポ 差別と貧困の外国人労働者』(光文社新書)、『沖縄の新聞は本当に「偏向」しているのか』(朝日新聞出版)、『「右翼」の戦後史』(講談社新書)、『団地と移民』(KADOKAWA)、『愛国という名の亡国』(河出新書)など多数。2012年『ネットと愛国』(講談社)で講談社ノンフィクション賞を受賞。2015年『G2』(講談社)掲載記事の『外国人隷属労働者』で大宅壮一ノンフィクション賞(雑誌部門)受賞。

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