フランス「40年前の統一教会事件」が社会を変えた 日本とは大違い「カルト規制」の厳しい中身

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「現在、セクト的逸脱行為対策に関してはフランス政府のソニア・バックス国務長官が直接責任を負っている。この点ではフランスは非常にユニークだ」とグラベル氏。MIVILUDESは官僚12人で構成される小さな部署だが、フランス政府内のすべてのカルト的虐待関連部署の重要な結節点となっている。

「通常は犠牲者の親族から相談を受ける。彼らを受け入れ、事件が解決するまで行政・司法および身体・心理のレベルで支援している」とグラベル氏は語る。

カルトは非常にセンシティブで複雑な問題なので、MIVILUDESは複数の省庁と連携して取り組んでいる。「財務省、教育省、社会問題省、司法省、警察庁などと協力している」(グラベル氏)。MIVILUDESは2017年には約2000件の案件を担当したいたが、2020年は約3000件、2021年は約4000件と徐々に増えている。

裁判所も対策を強化している

フランスの裁判所も対策を強化している。フランス最高裁判所は昨年9月、原告の意識が完全でない限り、法的措置の期間制限は進行しないという判決を下した。つまり、マインドコントロールの犠牲者は、カルトに入会した時期にかかわらず、マインドコントロールが解けた日以降に裁判を起こすことができるようになった。

例えば、法的措置の期間制限が20年だとして、カルトに20年以上入会し、金銭などの損害が20年以上前に発生していた場合も、再び自由になった日からそのカルトを相手に訴訟を起こすことが可能だ。

2年間におよぶコロナ禍によって、カルトによるマインドコントロールとのMIVILUDESの闘いは一層急を要するものとなっていると、グラベル氏は警告する。

「危機の時代には、叩き上げのカルト信者が提示する解決策はシンプルどころか奇跡的にさえ見える。彼らは社会のあらゆるレベルから信者を勧誘する。至るところで、時には国際的な規模で」。現在の統一教会に関しては、フランス国内では恐らく信奉者は非常に少ないだろうと、グラベル氏は信じている。

ちなみに、筆者がグラベル氏に初めて電話をした際、彼は私に日本語で「はじめまして」と言った。聞くと、彼の祖先には日本人がいるという。いま日本に必要なのは間違いなく、彼のような存在だろう。

レジス・アルノー 『フランス・ジャポン・エコー』編集長、仏フィガロ東京特派員

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Régis Arnaud

ジャーナリスト。フランスの日刊紙ル・フィガロ、週刊経済誌『シャランジュ』の東京特派員、日仏語ビジネス誌『フランス・ジャポン・エコー』の編集長を務めるほか、阿波踊りパリのプロデュースも手掛ける。小説『Tokyo c’est fini』(1996年)の著者。近著に『誰も知らないカルロス・ゴーンの真実』(2020年)がある。

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