バス横転時の脱出対策、「天井の非常口」検討へ 名古屋事故の教訓、容易な脱出方法を研究

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しかし、この人口の約30%が65歳以上の方となっている高齢化時代において、こうした人々が思うような足場もない中、とても2.5m上方へ移動できるとは、あまり思えない。それでなくとも、公共交通機関は、高齢者やお身体の不自由な方、小さな子供など、不特定多数の乗客を抱えている以上、弱者目線での対応は必要不可欠だ。

今回は前面の割れたフロントガラスから脱出ができたようだが、車両用のガラスは案外硬いので、人力で割るのも大変である。しかもフロントガラスは樹脂膜が入っていたりするので、割れても崩れない場合もある。

話を元に戻そう。私が提案しているのは、「天井部分への脱出用ハッチの設置」である。天井の中心部に80cm四方のハッチを設ければ、幅2.5m~3mほどのバスなどの車両が横転した場合でも、ハッチの縁が、85~110cmほどの高さになり、万が一の際は高齢者でも小学生でも、手が届くはずである。

欧米の連節バスではすでに設置例も

また一辺が80cmもあれば、体格の良い方でも比較的楽に通過できるように思う。ちなみに、この天井部分のハッチであるが、欧米の連節バスなどではすでに例がある。だが、まだまだ見聞の至らない私は、日本で製造された国内向けの車両では見かけた記憶がない。

国内を走る一部の連節バスには天井に非常口がある。中央のグレーの部分が非常口のハッチだ(筆者撮影)

国内を走る一部の連節バスには避難用ハッチが設置されている。これらはもともと欧米設計の車両であるため、「あって当たり前」なのである。欧米ではこの避難用ハッチを専門に製造している会社もある。その気になれば国産車でも装備できるのではないか。

某バス車両・製造会社の担当者によれば、「国が指定した保安基準で製造している。欧州のメーカーは、確かに天井に非常口があるが、それもその国の基準である」との回答であった。

では、なぜ、日本では天井の非常口について設置の必要性がないと考えられているのか。この理由について国交省に確認したところ、「天井への非常口の議論は昔からされている」という。ただ、「今までの事故のケースの中で天井から救出されるという例があまりにも少なかったために、天井の非常口は必要ないという決断がされていると思う」とのことであった。

しかし、「名古屋で事故が起きたため、今後設置する可能性も考えられる」という。また、「非常口を天井につけるか、または、わかりやすい場所に、簡単にガラスを割れるようなものを備え付けることも、ひとつの手として考えられる。今後、事故の調査が終わってから、どうしていくのかを検討したい」と話してくれた。

事業者・製造者・関係官吏の方には今一度、よくお考えいただきたいと願ってやまない。

渡部 史絵 鉄道ジャーナリスト

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わたなべ・しえ / Shie Watanabe

2006年から活動。月刊誌「鉄道ファン」や「東洋経済オンライン」の連載をはじめ、書籍や新聞・テレビやラジオ等で鉄道の有用性や魅力を発信中。著書は多数あり『鉄道写真 ここで撮ってもいいですか』(オーム社)『鉄道なんでも日本初!』(天夢人)『超! 探求読本 誰も書かなかった東武鉄道』(河出書房新社)『地下鉄の駅はものすごい』(平凡社)『電車の進歩細見』(交通新聞社)『譲渡された鉄道車両』(東京堂出版)ほか。国土交通省・行政や大学、鉄道事業者にて講演活動等も多く行う。

 

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