
柳瀬博一(やなせ・ひろいち)/東京工業大学教授。1964年生まれ。慶応大学経済学部卒業後、日経マグロウヒル社(現・日経BP社)に入社、記者を経て単行本編集に従事。「日経ビジネスオンライン」立ち上げに参画後、同企画プロデューサー。2018年から現職。著書に『国道16号線』、ほかに共著『「奇跡の自然」の守りかた』など。(撮影:今井康一)
コロナ禍で思うように会えないまま、入院中の父は旅立った。連絡を受け、遺体が戻った静岡の実家へ車を飛ばした著者。翌日、葬儀社とその後の段取りを済ませた後、死者を天国へ送る着替えや死に化粧などのエンゼルケアを始めた女性から、不意に言葉をかけられた。「お手伝いされませんか?」。著者の内的世界を激変させた、濃密な1時間半。
──納棺の手伝いは当初予定外だったのですか?
ええ、まったく。親父が亡くなった翌日、葬儀社の50代男性の方が来て、その横に制服姿の小柄な若い女性がいた。この方が納棺師のすずさんでした。まさか納棺師さんだとは思わなかった。その会社はたまたま社員に納棺師の方がいた。たまたまだそうです。
「せっかくだから、お好きな服を着せてあげましょう」ということで、母と弟とクローゼットに行き、ちょっと格好いい服を着せようと、バーバリーのジャケットとか、僕が初任給で買ってあげたアルマーニのネクタイとか、「ラーメンのシミが付いてるけど、これいいんじゃない?」とか話しながら選んだ。その時点ではまだ、親父は死体というよそよそしいモノでした。すずさんに言われる前は、遺体といえばお決まりの白装束、と思っていましたし。
これはさすがにプロの仕事だろうと、布団の横に下着をそろえて部屋を出ようとしたとき、手伝わないか、と声をかけられたんです。
「さわる」と「ふれる」の違いを実感
──実は以前、映画『おくりびと』の監督・脚本両氏に仕事でインタビューされてたんですよね。
その準備でDVDも数回見ていました。でも、当事者になるまでやはりひとごとだったんですね。
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