元朝日記者語る「メディアが外部批判恐れる」実情 「朝日新聞政治部」著者、鮫島浩氏が斬る!
世の中全体に同調圧力は強まっていますが、本当はそういう同調圧力や、表現の侵害に対して先頭になって戦うべきが言論機関でしょう。規制や表現の自由の侵害が世の中に蔓延った時でも、最後の砦として頑張る、最も表現の自由に対して踏みとどまらなきゃいけないのが新聞社だと思ってきましたが、にもかかわらず、「統一教会から批判が来たらどうしよう」「自民党から何か言われたら……」と、権力に睨まれることを怖れ、自ら率先して同調圧力に身を投じてしまっている。
そこには、国家権力に完全に弱みを握られてしまっている事情もあります。朝日新聞に限った話ではありませんが、全国紙4紙が共同で2020東京オリンピック・パラリンピックのスポンサーに就任したことはその象徴でしょう。誰もオリンピック開催の是非を問わず、礼賛報道を繰り返しました。
他の新聞社もしかりですが、朝日新聞もその過程で森喜朗元首相など大物と密会し、多額の広告収入の確約を得ているわけです。そんな事情があるのに政権批判などできるわけがない。
「出る杭」も活躍できる組織だった
――新聞は本来、権力を監視する立場にあるはずです。
それこそ『朝日新聞政治部』に書いたことですが、2014年9月11日の木村伊量社長(当時)の緊急記者会見が決定的なターニングポイントです。「吉田調書」キャンペーンに対し、政府、マスコミ、ネットが「朝日包囲網」のスクラムを組んで猛烈なバッシングが起こった。その圧力に屈する形で木村社長は記事の内容を誤報と認め、取り消す発言をした。
国家権力が報道機関に圧力をかけるのは、何も今に始まったことではありません。それでも押し合いへし合いしながら、これまではお互いの緊張関係を保っていました。ところがその2014年の記者会見で朝日新聞は"大惨敗"し、国家権力に屈服してしまった。それ以降は、国家権力に頭の上がらない人間が経営を掌握したことで、ますます萎縮・忖度の空気が社内に蔓延してしまいました。
朝日新聞というのは以前から官僚的な体質が強い会社で、8割は「守旧派」の人間が占めていました。ただ、残り2割の気骨ある「改革派」の記者や経営陣が会社を支えてきた歴史があります。
私自身も、その改革派の経営陣によって新設された特別報道チーム(後の特別報道部)で、あらかじめテーマを設定して調査をするという、新たな取材スタイルにチャレンジし、何度もトップ紙面を飾ることができたし、政治部の中枢も歩ませてもらいました。私のような「出る杭」にも仕事を任せ、評価してくれる企業文化がまだ残っていたので、朝日新聞もかろうじて言論界のリーダーとしてのメンツを保ってこられたと思います。
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