日本で「両利きの経営」が大注目された根本理由 実務家が学ぶべき「経営理論」という共通言語
入山:「両利きの経営」という言葉は、私が自分の著作で最初に使い始めたものです。
「ambidexterity」という経営学の考え方はもとからあり、日本の経営学者は「双面性」とか難しい言葉を使っていました。せっかく「両利き」という言葉があるから、それを使いたい。しかし、両利きだけではピンとこないので、「両利きの経営」という訳にしました。今は一般用語みたいになってきましたね。
冨山:硬い漢語ではなく、大和言葉のほうが、みんなの感性に響くので、そこは大事です。それから、イノベーションというと、何となくぼんやりするけれど、そこに経営の枠組みを当てはめたのも良かった。
入山さんの解説にある、縦軸に「知の探索」、横軸に「知の深化」をとったフレームワークは、私もよく利用しますが、あれも経営者の助けになっていると思います。図を見ながら、自社の分析をすれば、社内のコミュニケーションも進めやすくなりますから。
経営理論から実務家が学べること
入山:共通言語があるのは重要ですよね。『両利きの経営』も、拙著の『世界標準の経営理論』も、しょせんは学者の言っていることですが、抽象化して示されているので、共通言語になる。現場では、皆さんが具体だけで話すので、こっちの具体と、あなたの具体は違うとなってしまいます。
冨山:抽象化すると、会話できる範囲が急に広がり、探索に成功する確率も上がります。ドメインが広がるので。それができないと、個別の世界だけとなって、ガソリンエンジンで何とかしようという話にしかならない。変異幅が大きい今は、それでは解決しないことが増えています。
日本では、会社に入ると、具象化や個別化の連続です。特に改善・改良は個別化の作業で、思考方向は抽象から個別に行ってしまう。しかも、みんなずっと同じ会社にいるので、自社に固有なものを具体化し、微分力のある人が偉くなる。
抽象化は逆です。個別事象の共通点から世の中を動かす法則を見出す。特に文系の方々はその思考訓練を受けずに学部卒で就職するので、グローバルでは競争上の弱点になっています。
国の問題も同じで、壁にぶち当たったときに、改善改良で何とかしのごうとする。基本モデルを変えればよいと僕は思いますが、それは大それたことなので、みんな政省令をいじって何とかしようするから、複雑怪奇になっていく。