田中角栄は「赤字ローカル線」をどう考えていたか 「日本列島改造論」は新幹線以外も言及していた

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③は、新潟の豪雪地帯で生まれ育った田中が事あるごとに主張した、雪国特有の事情である。昭和40年代はまだ地方の道路整備が発展途上であったうえ、冬季の除雪対策も脆弱で、鉄道なら平年並みの積雪である限り列車が走る場合でも、道路は通行止めになりやすい。現代でも、冬季は半年近く閉鎖される山越えの幹線道路などもある。雪深い地域に住む人たちにとって、とにかく通年で毎日列車が運行される鉄道を待望する気持ちは、都会に住む者の比ではなかったと言われる。

最後の④については、当時の国鉄におけるローカル線の赤字状況に照らすと、言わんとすることが見えてくる。

国鉄の経営実績は国の収支の一環として、会計検査院が憲法第90条に基づき毎年その決算を検査し、その検査報告は国会に提出されていた。現在でも会計検査院のホームページには、日本国憲法が施行された昭和22(1947)年度以降の全ての年度の国鉄に対する検査結果が公開されている。

ローカル線の赤字は高額ではない

特に、『日本列島改造論』の刊行直前にあたる昭和46年度決算以降は、国鉄路線と船舶(青函連絡船などの連絡航路)を幹線約1万キロと地方交通線約1万1000キロに二分し、それぞれについて経営成績を明らかにしている。

『「日本列島改造論」と鉄道 』(交通新聞社新書)。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

そこで、この昭和46年度版の決算検査報告の国鉄に関する部分を見ると、幹線系線区の収入は1兆0899億円で鉄道・船舶による総収入の93パーセント、経費は1兆1573億円で鉄道・船舶による総経費の83パーセントを占める。一方、地方交通線は収入が810億円、経費が2408億円である。地方交通線の赤字は1598億円で、当年度の国鉄全体の赤字2425億円の半分以上を占めるが、地方交通線に要する経費自体は、国鉄全体の営業経費1兆4207億円の17パーセントに過ぎない。

つまり、地方交通線の中でも特に路線単体での採算が芳しくない地方ローカル線の営業経費の総額は、相対的に見れば国鉄全体を揺るがすほど高額ではない、という言い方ができる。そのような経費の支出による赤字は、国鉄全体の他部門の営業収入によってカバーできるはずであり、地方の開発を使命とする国有鉄道ならばそうすべきである、というのがここでの論旨であろう。

小牟田哲彦 作家

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こむた・てつひこ / Tetsuhiko Komuta

1975年、東京生まれ。早稲田大学法学部卒業、筑波大学大学院ビジネス科学研究科企業科学専攻博士後期課程単位取得退学。日本及び東アジアの近現代交通史や鉄道に関する研究・文芸活動を専門とする。2016年、『大日本帝国の海外鉄道』(現在は『改訂新版 大日本帝国の海外鉄道』扶桑社)で第41回交通図書賞奨励賞受賞。日本文藝家協会会員

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