何よりローズカラーのボディとブラウンのボンネットとのツートンカラーが、湖面の光と美しいコンビネーションを見せてくれる。そして、自動開閉するリアトランクはまさにヨットそのものだ。その中には、パラソルや専用の食器類などがぎっしりと詰まっている。
「このボート・テイルのオーナーは、真珠ビジネスで成功された方です。最初の打ち合わせのときには、真珠への熱い思いを語ってくれました」とアレックス氏。このエクステリアカラーをはじめとするボート・テイルのコンセプトは、真珠へのオマージュなのだ。
オーナーとの最初の打ち合わせを起点に、4年間の歳月をかけてボート・テイルは完成したという。さらに付け加えるなら、1932年製ロールス・ロイス ボート・テイルというレガシーが、このモデル誕生のストーリーに存在する。
ブランドのヒストリーへのオマージュがあって、現代のボート・テイルの存在感は増すのだ。117年の歴史を持つロールス・ロイスというブランドだからこそ生み出すことができる、真に特別なクルマなのである。
31億円という価格の意味
2017年にデビューしたコーチビルドモデルの第1弾は、およそ14億円という自動車のレベルを超えた価格が話題を呼んだ。その点で言えば、このボート・テイルはその倍以上となる31億円あまりと、とんでもなく高価だ。
しかし、富豪がファミリーの偉業を残すためにパトロンとなってアートを完成させたと考えれば、どうだろうか。
このボート・テイルは、世界中の公道を走行するためのホモロゲーション獲得をはじめとして、多大なコストがかかっている。この1台を販売して、ロールス・ロイスがどれだけの経済的な恩恵を得ているのかはわからないが、ロールス・ロイスが「顧客の夢を実現するために存在する」というブランドの意義を世界に発信できたことは間違いない。
アグレッシブに展開されるロールス・ロイスの新しいラグジュアリーカー戦略は、要注目だ。もっとも筆者などが手に入れることのできない、特別な世界であるのは事実であるが……。
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