本物の戦略立案者は自社でなく世の中・新を見る 「経営戦略の実戦」シリーズ464事例から考える

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ハーバードのケース・メソッドは学生に総計数百ものケースを与えるが、科目間に壁が立っていることもあり、横串は刺せていない。個別のケースが「そういうこともある」で終わってしまうのは、いかにも惜しい。このシリーズは、ケース多数を結びつけることで、ケース・メソッドの進化を図る面もある。

特徴2 「優良企業」という曖昧な基準を避ける

帰納法で吟味すべきケースを選ぶには、何らかの選出基準が必要になる。従来は、そこで「優良企業」という曖昧模糊とした基準が黙認されてきた。

その弊害は随所に表れており、たとえば『ビジョナリー・カンパニー』もケースを選出する段階で現役経営者やコンサルタントの他薦を募ってしまったので、結局のところ「世間の耳目を集めて好印象を与える必要条件」を抽出したことになっている。正確を期すならば、「ビジブル(visible)・カンパニー」と名乗るべきであった。

また、優良企業の為すことは何でも正しく見えてしまうため、成功と無縁な特徴を成功のエンジンと混同してしまいやすい。これをフィル・ローゼンツワイグは「後光効果」と名付けて警鐘を鳴らしたが、『エクセレント・カンパニー』も『ビジョナリー・カンパニー』も見事なまでに罠に落ちてしまった。

本格的に帰納法を採用するなら、「優良」にまつわる後光効果を回避する工夫が必要にして不可欠となる。

このシリーズでは、戦略の標的を利益率(1巻)、成長率(2巻)、占有率(3巻)と明示的に切り分けて、それぞれを引き上げるための必要十分条件を巻ごとに探りにいく。

どの指標を狙うかで戦略は異なるものだし、後光効果を断ち切るには説明すべき成果を定量化するのが最も効果的だからである。薄い教科書1冊で片付けるには、戦略は余りに大きい。

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