西九州新幹線「対面乗換」で解決できない根本問題 円滑、安全な移動目指し武雄温泉駅で模擬訓練

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何より、新八代での乗り換えのときは、新幹線つばめとリレーつばめには車内販売を行う客室乗務員が乗り込んでおり、対面乗り換え時はホーム上で乗客の案内を行っていた。記念写真を撮影している観光客には、発車時刻が近づくと乗車するように声がけをしていた。

だが、新幹線かもめとリレーかもめには車内販売を行う客室乗務員が乗車しないだけでなく、「武雄温泉駅の駅員も含めてホームに案内係を配置する計画はない」(今泉副室長)。今回のシミュレーションで得られた知見を生かし、サイン表示や車内・駅での放送案内を充実させることで対面乗り換えを円滑、安全に行いたいとする。

異常発生によりダイヤが乱れてリレーかもめが新幹線ホームに乗り入れできない事態を想定して、対面乗り換えではなく、階段やエスカレーターを使って別のホームに移動して乗り換えるシミュレーションも別途行われた。この場合は乗り換え時間として7分を想定しているという。

対面乗り換え、いつまで続くか

JR九州としては万全の準備を整えて開業を迎えたい構えだが、対面乗り換えが円滑に行われたとしても、それが永久に続いてほしいと考えるかどうかは別問題だ。新八代のときは7年後の全線開業というゴールが見えていた。しかし、西九州新幹線については見通しが立たない。今後の整備方式をめぐって政府・与党と佐賀県が対立しているためだ。

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武雄市など県の西部地域は全線フル規格による整備を望むが、佐賀市など県の中央部や右寄りの地域はもともと博多に近く、フル規格化の効果が薄い。加えて、地元の資金負担や在来線の在り方にも課題があるとして、県は全線フル規格化に反対している。国と県の間で整備方式をめぐってこれまで6回の協議が行われたが、目立った成果は上がっていない。

12月18日に佐賀県知事選挙が行われる。フル規格化を推す政府・与党に反発する現職の山口祥義知事は立候補を表明している。「対立候補が出ても新幹線の問題は争点にならないのではないか」という声も地元関係者の間から聞こえてくる。

10〜12月はJRと佐賀、長崎両県が協力して大型の観光キャンペーンを行うこともあり、西九州新幹線の盛り上げムードが続くはずだ。しかし、開業ブームがひと段落した年明け以降は、整備方式をめぐる議論が再燃しそうだ。対面乗り換えの行方もその頃には決着するだろうか。

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大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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