西九州新幹線「対面乗換」で解決できない根本問題 円滑、安全な移動目指し武雄温泉駅で模擬訓練

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4回のシミュレーションのうちの1回について、ほぼ全員が乗り換えを終えるまでかかった時間を手元の時計で測ってみたら1分47秒だった。考えてみれば幅10mのホームを横切るだけの移動である。3分あれば余裕を持って乗り換えることができるといえそうだ。

シミュレーションの企画運営を担当したJR九州・鉄道事業本部新幹線開業準備室の今泉康彦副室長は、4回のシミュレーションを振り返って「おおむねスムーズにできたと思う」としたうえで、「社員にアンケートをするなど、きちんと分析して改善点を集約し、対応したい」と話す。

一方で、乗客役を務めたJR九州・鉄道事業本部営業部旅行課の辻村翔氏は課題を挙げた。「社員はどの車両が何号車かわかったうえで移動している。実際の乗客は乗り換える号車を見つけるのが容易にはいかない。とくに在来線から新幹線への乗り換えよりも、新幹線から在来線への乗り換えがわかりにくいと感じた」。

なぜ、新幹線から在来線なのか。その理由はホームドアだ。新幹線側にはホームドアが設置されており、号車の番号がホームドアの壁に大きく表示されている。一方で、在来線側はホームドアがなく、車両に記載された号車番号を見る必要があるが、これが小さいのだ。在来線の列車なら当たり前とはいえ、時間の制約がある中で号車番号を探し出すのは確かにストレスかもしれない。

在来線が「787系」の場合は要注意

リレーかもめが787系や783系の場合、対面乗り換えはやや注意を要する。787系の基本編成は8両なので、目の前の車両にそのまま乗ればいいとは限らない。また、1号車がグリーン、2〜4号車が指定席、5〜8号車が自由席となっている。つまり、4号車は新幹線が自由席なのに787系は指定席なのだ。

783系はもっとややこしい。基本編成はやはり8両。1号車が半室グリーン席・半室指定席、2号車が指定席、3号車が半室指定席・半室自由席、4号車が自由席、5号車が半室グリーン席・半室指定席、6号車が指定席、7号車が自由席、8号車が自由席という構成で、自由席と指定席が入り乱れている。

また、運行開始後にコロナ禍が落ち着けば、外国人観光客の利用も増える。外国人がスムーズに対面乗り換えできるかどうかについても、今後の検討材料となる。

九州新幹線全線開業前に行っていた新八代での「リレーつばめ」と新幹線「つばめ」の乗り換え(記者撮影)

シミュレーションの様子を取材していて、ほかにも気になる点もあった。参加していたJR九州の社員の多くが手にしていたのは手提げバッグだった。今泉副室長は「大きな荷物を持つ乗客役の社員もいた」と話すが、実際はキャスター付きバッグやボストンバッグなどの大型荷物を持つ客はもっと多いはずだ。また、今回は乗客役がJR九州の社員ということもあり整然と移動していたが、かつて、新八代ではホームの端まで走って2つの列車が並ぶ写真を前に記念撮影する客も少なくなかった。

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