"ナッツ姫"に下された「懲役1年」の意味 韓国に渦巻く「有銭無罪」への微妙な感情

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お粗末だったのは、それだけではない。趙被告の父親で大韓航空の会長でもある趙亮鎬(チョ・ヤンホ)氏は「教育が間違っていた」と謝罪の意を示し、裁判に証人として出頭した際も「今回の件で従業員に不利益は与えない」と公言した。にもかかわらず、この事務長が職場復帰後、短距離路線を何回も往復する勤務が増えたことがわかり、「肉体的にも精神的にもきつい勤務体系を強いられている」との批判がわき起こった。

さらに、趙被告の兄がかつて市民を恫喝するような発言をしたことが蒸し返されたり、実妹が「今回の事件では必ず復讐して、姉の敵を取る」と発言したことが報道されるなど、兄弟にも足を引っ張られている。趙被告自身も公判中に反省の色が見えず、「飛行機が移動中とは知らなかった」といったあからさまなウソを述べている。

韓国国民の反応はどうだったか

今回の懲役1年の実刑判決をどうみるか。検察の求刑は、航路変更罪では上限となる3年。このような形の求刑だと、執行猶予がつきやすい。だが、判決次第では「司法は金持ちに甘い」と世論の反発を招くことが予想された。そのため、実刑になったのは「世論と法律を考えたギリギリの判決」と言えなくもない。

とはいえ、国民の大半は「そのうち何らかの形で赦免され、趙被告は経営の一線に復活するだろう」というあきらめの声が支配的だ。これまで韓国財閥の近親者が司法判断で有罪となっても、まっとうに罪を償ったことがないためである。

韓国財閥を揶揄する言葉に「有銭無罪」というものがある。韓国財閥の歴史は、同時に政経癒着や脱税で揺れに揺れた歴史でもある。財閥は韓国経済になくてはならないエンジンであると同時に、「自分たちだけが裕福な暮らしをしている」と国民から反発・反感を買う存在だ。

サムスンや現代自動車など、過去何回も不正腐敗が取りざたされ、一部では有罪判決が出たものの、政権が変わるなどの節目で「国家に必要な存在」という理由によって赦免されてきたことも数かぎりない。韓国の国民は、そんな財閥の歴史を忘れたことはない。

改めて事件を振り返ると、司法上は航路変更罪でしか裁けない程度の事件ともいえる。言い換えれば、「騒ぎのうちの大部分は、社内で穏便に解決できた問題」(韓国経済誌記者)なのだ。「『管理のサムスン』と言われるほどのサムスングループであれば、よくも悪くも情報統制がしっかりしているため、ここまで世論の反感を買うことなく、社内ですべて処分しただろう」(同)。

奇しくも判決と同じ日に、大韓航空は2014年度決算(1~12月)を発表した。売上高は11兆8487億ウォン(約1兆2800円)と前期比0.5%の増収、営業利益は前期の196億ウォン(約21億円)の赤字から3950億ウォン(約426億円)と黒字転換を果たしている。だが、今回の事件のダメージは2015年度以降にこそ、じわじわと効いてくるだろう。

オーナー一族が主導する財閥の経営体制が生み出したともいえる、今回のスキャンダル。韓国のほかの財閥にとって“他山の石”となるかが注目されるが、韓国財閥に根付いた体質を考えると、それも望み薄となりそうだ。

福田 恵介 東洋経済 解説部コラムニスト

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ふくだ けいすけ / Keisuke Fukuda

1968年長崎県生まれ。神戸市外国語大学外国語学部ロシア学科卒。毎日新聞記者を経て、1992年東洋経済新報社入社。1999年から1年間、韓国・延世大学留学。著書に『図解 金正日と北朝鮮問題』(東洋経済新報社)、訳書に『金正恩の「決断」を読み解く』(彩流社)、『朝鮮半島のいちばん長い日』『サムスン電子』『サムスンCEO』『李健煕(イ・ゴンヒ)―サムスンの孤独な帝王』『アン・チョルス 経営の原則』(すべて、東洋経済新報社)など。

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