金融緩和で溢(あふ)れるマネー 再び世界を不安定化
蓄積するインフレ圧力
1930年代の大恐慌の教訓から、08年のリーマンショック後の危機を世界的な金融緩和と財政出動で乗り切った。これは正解だったのだろう。しかし、中央銀行が景気を何とかすべきだ、何もかも中央銀行の責任だ、という風潮が定着しつつある。グリーンスパン前FRB議長への批判は早くも2年で忘れられたかのようだ。先進国で高齢化が進んでいることから、医療費や年金などの社会保障費が膨らみ続け、財政政策が限られていることもある。
マクロ経済政策は一時の循環的な問題を解決するカンフル剤にすぎないが、日本も米国も、構造改革を先送りして金融政策に依存する状態が定着してしまったように見える。中国など新興国も経済成長のために、緩めの金融政策、為替政策を続けてきた。その結果、バブルの生成と崩壊を繰り返すパターンから抜け出せず、膨れ上がったマネーフローが再び大きな危機を引き起こすのではないか。
JPモルガン・チェース銀行の佐々木融・債券為替調査部長は「ドル建て、ユーロ建て、ポンド建て、スイスフラン建ての金価格はいずれも第2次オイルショック時をはるかに超えている。超えていないのはデフレ下の円だけ。他の主要通貨の価値がすべて下落している」とし、「世界が悪いインフレに向かっている可能性」を指摘する。
日本の場合は、過剰な供給能力の調整が金融緩和の長期化や公的金融によって妨げられ、物余りが生じていることで、むしろデフレ方向の圧力が強いのではないか。
為替介入に拘泥する中国も構造改革を先送りしている。しかし、「新興国だけが経済成長している状況では金融緩和を続ける日米から資金が中国へ流れ続け、インフレ圧力が増す。元の緩やかな切り上げではもたなくなり、2~3年のうちに大きな切り上げを迫られるのではないか」とJPモルガンの佐々木氏は見る。「中国の人民銀行も、ドル安で目減りしていくドル債をこれ以上持ちたくないのが本音。次期政権の首相と目されている李克強副首相は、人民元相場が経済構造調整に積極的役割を果たすべき、と主張している。中国にとって元高がメリットになる状況が来れば切り上げに踏み切る」(みずほ総合研究所・細川氏)。
そうなれば、ドルは大きく減価する。拡大する不均衡が大きな調整を迫られる時期は近づいているのかもしれない。
(シニアライター:大崎明子 =週刊東洋経済2011年3月12日号)
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