企業は、高齢者を雇うよりも何でも柔軟にできる若い労働者を雇った方が効率がよいので、高齢者が働くことは難しいと考えがちだ。何をやらせても若者の方が高齢者よりも生産性が高くて、高齢者を雇用することは割高だと感じるかも知れない。
サミュエルソンの弁護士は、自分よりもすべての面で能力的に劣る秘書に頼むような仕事はないと考えたに違いない。しかし、自分がやった方が早い仕事でも給料を払ってでも秘書にやってもらった方が、はるかに効率的であることに思い至る。
生産性が低くても高齢者にできることはまかせて、若い労働者は高齢者にはできない仕事に専念した方が、個々の企業でも日本経済全体でも効率がよいということを教えている。
日本経済における分業の効用
日本の企業は、ひとりの従業員がいろいろな業務を行うジェネラリストの組織である。こうした組織には、業務間の人員の調整が容易だというプラスもあるが、分業の利益を十分享受できないというマイナス面もある。
組織の中で能力のある人に仕事が集中してしまうということが言われるが、それはサミュエルソンの弁護士が、弁護士業務の上に自分でタイプをしようとするようなものだ。自分でやった方が効率は良いと思えることでも、あえてタイピストに任せるという分業を、日本社会では意識的に行うことが必要ではないか。
ポイントは、弁護士が自分でやるべき仕事と、他人に頼んだ方が良い仕事を切り分けることだ。業務の中で行われている細かな作業を見直して、分業体制を作ることが効率の向上につながる。体力も柔軟性もある若い労働者が取り組むべき仕事と、高齢者や時間や働き方に制約のある労働者に頼む仕事とをうまく切り分けることがこれからの企業経営で重要になるだろう。
人手不足があちこちで問題となるようになっており、高齢者の就業を促進する思い切った政策を打ち出しやすい環境となった。幸運なことに、日本の場合には高齢者の労働意欲は旺盛だ。健康に問題がある人などは別として、適当な仕事があれば働きたいと思っている人は多い。高齢者が自分で働いて所得を得ることができれば、それだけ公的年金の支払いを縮小することができるので若い世代の負担の増加も大幅に緩和されるはずだ。
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
無料会員登録はこちら
ログインはこちら