韓国人が安倍元首相死去に複雑な感情を抱く理由 強い指導者、歴史修正主義者…保革で評価分かれる

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安倍氏としては韓国に「日韓の歴史は忘れて(あるいは棚に上げて)、アメリカとの同盟関係をともに強化しよう」と考えたのかもしれない。慰安婦合意などその一端だったのかもしれない。

ところが、慰安婦合意を反故にされたうえに元徴用工への賠償判決に何の対策も打てない文政権に反感を募らし、さらに自衛隊への韓国軍によるレーダー照射事件(2018年12月)に、日韓GSOMIA(軍事情報包括保護協定)の協定破棄通知(2019年8月、同年11月に協定失効通告を停止)効力停止を行ったことでまったく信じることができなくなってしまった。これはすべてが安倍氏による日本外交の責任ではないのは確かだが。

強固な政治基盤の影響

しかし、もし安倍氏の国内政治基盤がもう少し弱かったのであれば、こういった問題にはより慎重な態度で解決しようとしたのではないか。長期政権ゆえの政治基盤の強さを背景に、「強い日本にすべき」との政治信念と韓国への一方的な認識ゆえに、かえって直接的で強硬な対応をとってしまい、それがかえって外交の選択肢を減らし、余裕を失ったともみえる。

2022年5月に発足した保守政権である尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権は日本との関係改善を模索している。これに日本も応えようという動きが出てきた。お互いに歩み寄りの気配が出てきた中での安倍氏の死去。韓国政界からは「岸田文雄政権の穏健路線から、安倍流の強硬路線へ舵が少しずつ動き、日韓関係にも否定的な影響が及ぶのではないか」と心配する声が高まっている。

同時に、政権発足からわずか2カ月で、尹政権への支持率が40%を切った。これは大韓民国建国後の李承晩政権以降、初の事態だ。今は朴振(パク・チン)外相はじめ日本やアメリカと精力的な対話外交を行っているが、またぞろいつもの「反日カード」を拙速に取り出さないか――。史上最悪の日韓関係の先行きは依然として不透明なままだ。

福田 恵介 東洋経済 解説部コラムニスト

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ふくだ けいすけ / Keisuke Fukuda

1968年長崎県生まれ。神戸市外国語大学外国語学部ロシア学科卒。毎日新聞記者を経て、1992年東洋経済新報社入社。1999年から1年間、韓国・延世大学留学。著書に『図解 金正日と北朝鮮問題』(東洋経済新報社)、訳書に『金正恩の「決断」を読み解く』(彩流社)、『朝鮮半島のいちばん長い日』『サムスン電子』『サムスンCEO』『李健煕(イ・ゴンヒ)―サムスンの孤独な帝王』『アン・チョルス 経営の原則』(すべて、東洋経済新報社)など。

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