韓国人が安倍元首相死去に複雑な感情を抱く理由 強い指導者、歴史修正主義者…保革で評価分かれる

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2019年、大阪でのG20サミットで韓国の文在寅大統領(右)と握手をしたあとの安倍晋三元首相(写真・2019 Bloomberg Finance LP)

安倍晋三元首相の死去は、隣国・韓国でもたいへんな驚きをもって受け止められている。ただ、その受け止め方はとても複雑だ。

社説でこのニュースを扱う韓国紙は少なくなかったが、「国際社会に衝撃」(韓国日報)、「どんな理由であれテロは許されない」(ソウル新聞)、「民主主義を脅かす暴力はいけない」(京郷新聞)と述べながらも、「日本右翼のシンボル」「史上最長の政権を担った強力なリーダー」とし、慰安婦や元徴用工問題といった歴史問題で韓国と対立し、2019年に日本政府が実施した韓国向け輸出規制強化を行った人物として言及している。銃撃による死去という事実と、これまでの安倍氏の韓国外交とのギャップにとまどいを隠せずにいるようだ。

実際に韓国人からすれば、安倍氏に対しては複雑な気持ちにならざるをえないのだろう。韓国では、とくに「進歩」と呼ばれる革新・左派勢力からすれば、安倍氏は「過去の植民地支配から生じた歴史問題を認めない歴史修正主義者であり、日本右翼のシンボル」だ。

「上から目線の歴史修正主義者」

安倍氏は2015年12月に、当時の朴槿恵(パク・クネ)政権と「最終的で不可逆的な解決」を目指した「慰安婦合意」を果たした。しかし、朴政権が保守政権であったため、韓国の野党・左派支持層は慰安婦合意に反対、さらに安倍氏自身へも強い批判を行った。2016年には、韓国側が安倍氏に対して慰安婦に謝罪の手紙を送ってほしいとの追加措置を求めたものの、安倍氏が「(謝罪の手紙を出すことは)毛頭考えていない」と発言したことで、韓国国内での安倍氏のイメージは悪化した。

結果、その後を受け継いだ革新政権である文在寅大統領は、7割超が反対という韓国世論を背景に、慰安婦合意を「法的拘束力のない政治的合意」と表明。そして2018年11月には、合意により日本政府が拠出した10億円を基に慰安婦に支給する韓国側の「和解・癒やし財団」を解散させた。こうした決断を後押ししたのは韓国世論の安倍氏への反発の強まりがあったのは間違いない。一方で、安倍氏が自民党内や支持層からの強い反発を覚悟したうえで慰安婦合意を推進してきたという事実は、韓国ではほとんど知られていなかったし、今でもほとんどが知らないだろう。

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