ワークマンが「靴の大手」へと急浮上を狙う裏側 デザイン起点の商品開発とは「真逆戦略」で勝負

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この真逆の戦略こそ、ワークマンが靴市場に本格参入できたゆえんでもある。

靴はファッションアイテムであると同時に、歩行や運動機能をサポートする道具でもあり、一般的に参入障壁が高いといわれる。「靴は機能性などの付加価値が必須で、何か売りとなる機能がないと浸透しづらい」(三井物産戦略研究所の高島勝秀研究員)。

ファーストリテイリングも2009年、傘下のユニクロでオリジナルシューズの開発に参入した。しかし、カジュアルなユニクロの衣料とシューズのデザインが合わないなどの問題があり、売れ行きは伸び悩んで2年で撤退。2015年に再参入した後は機能性を強化し、ユニクロとGUで素材の柔らかさや履き心地を訴求した商品の展開に力を注いでいる。

機能性に特化したワークマンでは、靴の売り上げが目下急速に伸びている(上図)。2018年3月期までは作業靴の売り上げが大半を占めた。しかし2019年3月期に一般客にまで顧客層を広げた「ワークマンプラス」を立ち上げて以降、カジュアル靴が牽引し、靴の売り上げは一気に拡大した。

以前は安全靴が圧倒的な売れ筋だった

作業靴も含めた売上高で見ると、ワークマンは靴の専門業態を展開する国内小売り企業の中で一気に4位へと躍り出る。将来的にはカジュアル靴だけで、靴小売り3強のエービーシー・マート、チヨダ、ジーフットに迫る売上高を目指す目標をぶち上げている。

ただ、カジュアル衣料に比べ、カジュアル靴の開発を進めることにワークマン社内は慎重だったという。そのため商品開発のスピードも、衣料より時間を要した。理由の1つが、在庫管理の難しさにある。

S、M、Lでのサイズ展開が基本の衣服に対し、靴は23~28センチまで0.5~1センチ刻みで展開されることが多く、1アイテム当たりの在庫量は必然的に膨らむ傾向にある。店頭陳列やバックヤードでの保管においても、たたんで重ねられる衣服と比べ、靴はかなりのスペースを要する。

また、ワークマンでは従来、靴の売り上げのおよそ4割を占める安全靴が圧倒的な売れ筋商品だった。新たにカジュアル靴を投入するには、それだけ他商品の陳列を減らすか、店舗面積を広げる必要がある。

「職人向けの靴は一定の顧客基盤があるため、商品開発をすれば売り上げを確保できる。売れ筋商品の売り場を割いてまで、ほかの靴の開発をするべきかという議論があった」(ワークマンの大内康二・商品本部長)

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