東武「台風で浸水」想定、列車避難計画の現実味 深夜に高架へ移動訓練、車内には「仮設本区」

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関東平野を広くカバーする東武鉄道の沿線には利根川や荒川といった大型河川が流れている。国土交通省国土地理院が公開している「重ねるハザードマップ」を見ると、洪水によって想定される浸水深は、南栗橋車両管区で3.0~5.0m、新栃木出張所と春日部支所で0.5~3.0m、七光台支所に至っては5.0~10.0mとなっている。一方、東上線・越生線は車両留置場所としては浸水域がない。

500系車内の「仮設本区」では乗務員のアルコール検査も(記者撮影)

東武鉄道が2021年9月に発行した『安全報告書』は、大規模災害に対する備えとして「大規模な台風等で浸水被害の可能性が懸念される車両基地等については、留置している車両を浸水の及ばない高架区間等に避難させる車両避難計画を整備しています。車両の浸水被害を防ぐことで、事業継続へのリスクを低減させます」と説明している。

同社の車両避難計画では、本線系統に所属する200本以上の編成は、パズルを組み立てるようにすべてを高架区間など安全な場所に留置できることになっている。傾斜や踏切の位置を考慮したうえで、駅の各ホームに1本、前後の閉塞区間に1本を止める。例えば、複々線区間は草加駅に13本、越谷駅に10本、途中駅は4本ずつ――といった具合だ。春日部支所所属の500系なら浅草駅の3番線と4番線、とうきょうスカイツリー駅の上りホームに1本ずつ、などと避難場所もあらかじめ決めてある。

避難車両にも優先順位

全列車の避難は“理論上”可能とはいえ、相手は自然災害。時間や手配できる乗務員が限られるおそれがある。そのような場合も想定し、避難させる編成の優先順位も決めてある。「資産保全」の観点から新しい車両や特急車両、また他社線への影響を考慮して地下鉄直通用車両が優先される。アーバンパークラインの場合は60000系、10000系、8000系の順になる。状況によっては浸水から救えない車両も出てくることになる。

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また、車両を避難させるには、事前に運転取りやめを予告する「計画運休」の実施が前提になる。避難作業は、夜間の車庫の状態、つまり翌朝に備えたのと同じ車両配置に戻してからスタートさせるからだ。計画運休は原則、2日前までに「実施の可能性について」、前日までに「実施について」の情報発信をすることにしている。車両避難を伴う計画運休はさらに前倒しが求められるといい、結果的に被害が軽微だった場合でも、運休開始から運転再開までに数日を要することが避けられない。

最近は災害の激甚化で毎年のように全国のどこかで鉄道施設が被災をしていて、東武の車両避難計画の実行も現実味を帯びている。一方、計画運休についてはようやく実施のハードルが下がってきたばかり。大型台風が近づいているのはわかっているが青空が広がっている、などといった緊迫感が薄いなかで数日にわたる運休が受け入れられるのか。車両避難のためには利用者のこれまで以上の理解が欠かせない。

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橋村 季真 東洋経済 記者

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はしむら きしん / Kishin Hashimura

三重県生まれ。大阪大学文学部卒。経済紙のデジタル部門の記者として、霞が関や永田町から政治・経済ニュースを速報。2018年8月から現職。現地取材にこだわり、全国の交通事業者の取り組みを紹介することに力を入れている。

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