日本と大きく異なるインドの労働法、雇用時には契約締結を--琴浦 諒弁護士にインタビュー
普段からこまめに社員の不満を聞いたり、うまくガス抜きして、できる限り従業員に「社内労組を作ろう」という方向の発想に持っていかせないことが重要ですね。労働組合を結成、運営するのはそれなりに面倒なので、現状に不満がなければ従業員も社内労組を作ろうとは思わないでしょうから。
もしできてしまったら、何とかうまく付き合っていくしかないですね。強硬な手段で対応することもできますが、リスクは大きくなります。ただ、組合側も、いきなり「給料を3倍にしろ」とか無茶な要求をしてくるわけではありません。基本的には話がわからない人たちではないので、できるだけ穏便に済ませるように、話し合いで解決にもっていくのがいいと思います。
--インドでは労働問題などで訴訟が起きやすいとされていますが。どう思いますか?
まず、インドは英米法式の契約社会ですから、インド人のマインド面で、訴訟を起こすことに対するハードルは低いです。日本人の訴訟に関する感覚とはかなり違うものだと思います。
また、裁判になると第一審だけで5年以上、上訴審を含めると20年近くになることもあります。そこで、日本人は「インド人はいつも裁判で争っている」との印象を強く受けていることから、「訴訟が起きやすい」と感じるのだと思います。
内容としては解雇に関することが多く、訴えてくる側はworkmanであることが多いです。また、workmanの場合、職務内容に関するトラブルもかなりあります。workmanに、従来から営んでいた業務以外の業務を行わせる際には要注意です。
たとえば、運転手に空き時間にオフィスの掃除もできるだろうからとそれを指図したりすることなどです。インド人は決められたこと以上はやりたがりません。日本では「これ大変だから手伝ってよ」と言えばお互い協力するのが普通ですが、インドではなかなかそうもいきません。
--確かにインド人は自分のテリトリーから外へ出たがりません。non-workmanでも決まっていることしかしない傾向はありますね。
日本人の場合、一般に、仕事のうえで新たな権限や責任を与えられると「会社に認められた」と喜ぶことが多いと思いますが、インド人の場合はそうでもありません。それは、英米的な合理的思考という面もあるでしょう。また、先ほどの法的な労働者区分であるworkmanとnon-workmanの違いでもあったように、就業上のマインド面でも職能制度としてのカースト制度の影響があるのかもしれません。