東海道新幹線「3つのカイゼン」で目指す将来の姿 速度向上だけでなく安全・安定・サービスも

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新横浜では、駅係員がホームドアを開けて列車を待っていた。列車が到着すると、駅係員や警察の指示により乗客が避難を開始。「あせらずゆっくりと」という指示があったにもかかわらず、大半の人が走って避難していた。おそらく実際の状況を想定してのことだろう。同時に大勢の警察官たちが列車に乗り込んで、男性を取り押さえた。

ホームドアと車両の位置がずれた状態での避難には課題も(撮影:尾形文繁)

最後に報道関係者も下車したが、ホームドアの裏側に設置されている突起物が邪魔になって列車からホームへの移動は結構難儀だった。この状態でもし大勢の乗客が押し寄せたら将棋倒しになる危険があると感じた。

今回の訓練を担当した新幹線鉄道事業本部の近藤雅文運輸営業部長は、「このような訓練を積み重ねていくことが非常に大切。社員の対応能力を高めていきたい」と話す。JR東海はこれまでにも大地震や列車内火災など毎年テーマを決めて、営業運転終了後の深夜に、実際に列車を走らせて訓練を行うことで異常事態に備えている。とはいえ、JR東海の想定を超えるトラブルが次々と起きているのも事実だ。新たな課題が生じれば、それに対応した訓練を行う。この繰り返しに終わりはない。

「雪対策」へブレーキ試験装置

2つ目の「磨き」は安定運行についてだ。世界一の定時運行性能を誇る東海道新幹線の泣きどころは「雪」である。それまで秒単位の正確さで運行していても、雪が降ると途端に運行ダイヤが乱れ始める。

東海道新幹線のルート上で特に雪が多いのが、滋賀県と岐阜県の県境に位置する米原・関ヶ原地区である。雪の弊害は大きい。高速走行する新幹線が巻き起こす風で、線路に積もった雪が舞い上がり、車両床下や台車に着雪。これが次第に大きくなって雪塊となり、落下した際の衝撃で線路の砂利(バラスト)が飛散し、車両の窓ガラスを破損させることがある。そのため、新幹線は降雪時に減速運転を余儀なくされる。名古屋駅ではホーム下で車両の床下に付着した雪を落とす作業が行われるが、作業が長引けば列車遅延につながりかねない。

そんな雪の悩みを、ある装置が解決してくれるかもしれない。それは、JR東海の小牧研究施設で3月から本格稼働した「ブレーキ総合試験装置」である。

小牧研究施設の「ブレーキ総合試験装置」(撮影:尾形文繁)

地震発生時に列車を速やかに停止させるため、ブレーキ性能の改善が続けれられてきた。しかし、冷たい雨や雪が降る状態で強くブレーキをかけると、車輪が滑って停止までの距離が長くなる。そのため、JR東海は季節に関係なく冷たい雨や雪といった気象条件を再現し、ブレーキ試験を繰り返し実施できる試験装置を開発した。試験で得た知見を生かして、最適なブレーキ制御に向けたブレーキ部品の改良に取り組んでいく。この試験装置は国内初で、約28億円かけて開発したという。

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