トヨタ国内販売幹部交代、増える受注残に危機感 納期の長期化など背景に人事一新、疑問の声も

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自動車各社は半導体などの部材不足に苦しんできたが、トヨタの場合、2020年5月に実施した全車種併売化により特定車種に人気が集まったことで需給逼迫に拍車がかかった。

今年1月に刷新されたミニバンの「ノア」や「ヴォクシー」のハイブリッド車(HV)は納車まで1年以上かかる。人気のSUV(スポーツ用多目的車)「カローラ クロス」のHVは5月末に受注を停止するなど、「主力車種のHVで受注停止が一気に増えている。苦肉の策でガソリン車を案内している」(販売店営業スタッフ)。

併売化以前のトヨタの国内販売は、トヨタ店の「クラウン」のように4チャネルそれぞれに専売車種があった。メーカーは需要を予測した台数を生産するが、余剰が生じた場合は各チャネルが引き取っていた。

だが、併売化以降はどの店でどの車種が売れるかが予測しにくくなった。「コロナ禍前から受注を想定した車種ごとの生産計画の精度が低くなっていたが、ここまで受注残がかさんでいるのは非常事態」(販社社長)。

「長い納期」が引き起こす顧客離れのリスク

国内販社は顧客のつなぎ留めに必死だ。新車を売れないと、付随する金融や将来の整備収益も見込めない。トヨタは2015年から導入した新しいプラットホーム(車台)が奏功し、商品の競争力は高い。ただ、どんなに商品が良くても長納期が当たり前となってしまえば顧客離れが起きかねない。

受注残の早期解消には、生産計画の精度向上や、受注から納車までのリードタイムの短縮が不可欠。その手段として「ムダ・ムラ・ムリ」を徹底的に排除するTPSの活用があり、社内ではTPSの伝道師の役割を担っている友山氏に白羽の矢が立ったという訳だ。 

国内販売事業本部長に就任する友山氏(左)は豊田社長とともに販売改革に取り組んだ経歴がある(撮影:梅谷秀司)

友山氏の起用に対し「豊田社長との相性はいい」という声が複数の販社社長から上がる一方で、批判もある。

あるサプライヤー首脳は「豊田社長は、表向きは次世代のリーダーを育てると言うが、取り巻きやお友達で人事を回していくというメッセージと捉えられても仕方がない」と指摘する。

友山氏の現場復帰に加えて、「番頭」としてトヨタ社内の調整役を務めてきた小林耕士氏(73)が6月の株主総会で代表取締役は退任したものの執行役員として残った人事も踏まえ、組織の新陳代謝が進んでいないとみる向きがある。

豊田社長は人事における「適材適所」の重要性を強調してきた。一部の批判に応えるうえでも、友山氏は山積する国内販売の課題を早期に克服する必要がある。

木皮 透庸 東洋経済 記者

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きがわ ゆきのぶ / Yukinobu Kigawa

1980年茨城県生まれ。一橋大学大学院社会学研究科修了。NHKなどを経て、2014年東洋経済新報社に入社。自動車業界や物流業界の担当を経て、2022年10月から東洋経済編集部でニュースや特集の編集を担当。

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