ギドラからゴジラへ「危機管理庁」設置3つの目的 日本の危機管理オペレーションは変われるか

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

1つの指揮命令系統

最後に、岸田首相は有事における指揮命令系統を一本化し、首相のリーダーシップが発揮できるような仕組みを構築すると述べている。

日本では、医療分野では多くの病院が民間病院であり、公衆衛生分野では保健所や地方衛生研究所は自治体の管轄である。国に附属しているのは検疫所だけだ。危機時にも平時の分権的な体制のまま対応せざるを得なかったことにより、政府が意図したとおりに政策が執行できないという状況が発生した。

このような反省を踏まえ、医療提供体制については、医療資源の確保などについて、国と地方がより強い権限を持てるよう法整備を行うとしている。さらに、有事においては、感染症対策部を始めとして、司令塔である危機管理庁の指揮下に各省庁の職員を置き、首相のリーダーシップと一元的な指揮の下に感染症危機管理を実行していくと表明した。

1つの指揮命令系統が整備されるのであれば、日本の危機管理体制の向上が期待できる。

4つ目の「1」が必要

最後に、感染症危機管理のハード面についての改革である上記の3つの「1」に、ソフト面の改革を加えて、4つの「1」にするとさらなる向上を望めると筆者は思う。具体的には、有事の際に、全国の関連機関が国家として一体的なオペレーションを実行できるように、危機管理オペレーション全体を包含する1つの思想体系としての「ドクトリン」(教義)を作ることである。

ドクトリンとは、標準化された原理原則に関する知識体系を意味し、危機管理オペレーションについて歴史的な蓄積がある軍事分野においては必須の存在だ。

感染症分野では、このようなドクトリンがなかったために、「そもそも感染症危機管理とは何なのか」ということ自体があまり理解されないか、関係者の間で異なる理解をしてしまうがため、全体として統率がとれず、バラバラのオペレーションになってしまった。ソフト面の改革としてのドクトリンの作成は、全国的な統合運用に大いに寄与するだろう。

日本国民を守るための仏は作られることが決まった。魂が入るかどうかは、今後の組織設計と人材配置にかかっている。

阿部 圭史 政策研究大学院大学 政策研究院 シニア・フェロー

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

あべけいし / Keishi Abe

政策研究大学院大学 政策研究院 シニア・フェロー、医師。専門は国際政治・安全保障・危機管理・医療・公衆衛生。国立国際医療研究センターを経て、厚生労働省入省。ワクチン政策等の内政、国際機関や諸外国との外交、国際的に脅威となる感染症に対する危機管理に従事。また、WHO(世界保健機関)健康危機管理官として感染症危機管理政策、大量破壊兵器に対する公衆衛生危機管理政策、脆弱国家における人道危機対応に従事。著書に『感染症の国家戦略 日本の安全保障と危機管理』、『コロナ民間臨調報告書』(共著)。北海道大学医学部卒業。ジョージタウン大学外交大学院修士課程(国際政治・安全保障専攻)修了。

この著者の記事一覧はこちら
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

関連記事
トピックボードAD
政治・経済の人気記事