洋上風力、「公募入札のルール変更」に異論噴出 大幅見直しは三菱商事の総取りを防ぐため?

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国はこうした動きを抑制しようとしてきたはずだった。洋上風力で先行する欧州では、国が調査を行い事業者にデータを共有。事業者や地元の負担を軽減することで案件を推進しているのだ。

山形県遊佐町沖では、環境省が環境アセスメントに必要なデータ収集を実施。事業者や地方公共団体に情報提供を行う実証事業を2022年度から始めた。

ゆくゆくは洋上風力が急速に普及した欧州に倣って、こうした情報収集などを国が一手に引き受けることで事業者のリスクを軽減する「日本版セントラル方式」を目指しているからだ。だが、各事業者に先手を打つことを促す、ルール変更はこれまで積み上げてきた洋上風力のあるべき姿とは相反するものだ。

運転開始がより早い事業者をなぜ高く評価するのか。役所は「2030年度のエネルギーミックス(電源構成)に資する計画であること」をポイントとして挙げている。

2021年4月、菅義偉首相(当時)は2030年度に温室効果ガスを46%削減(2013年度比)することを表明。この数値に基づいて日本のエネルギー政策が策定されている。あるエネルギー関係者は「2030年度に向けて少しでも再エネ電源を積み増したいのではないか」と推測する。

問題はこうした発電所の早期稼働方針とコスト低減が両立できるかだ。

経産省の再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会の岩船由美子委員(東京大学生産技術研究所特任教授)は「今後の国民負担を考えれば2030年はカーボンニュートラルに向けた通過点でしかない。運転開始が1年遅れたとしても、その(提案で)再エネが安くなるならいいのではないか」と指摘。30年ありきの考え方に警鐘を鳴らした。

洋上風力発電のコストが高くなれば、それは国民負担に直結することになる。早期運転開始に固執するあまり、発電コストが上がればバランスを欠くと言わざるを得ない。

関係者からルール変更に懸念の声

ルール変更案のもう1つのポイントは複数区域で同時公募が行われた際の落札制限だ。「多数の事業者への参入機会を与える」ため、公募参加者1者当たりの落札制限を設け、上限を超える応札については無効とするというものだ。いわば、ある事業者が「総取り」するような事態を避けるための規定といっていいだろう。

ただ、どこの海域がいつ公募にかけられるのかは分からない。第1ラウンドに参加したJERA(東京電力フュエル&パワーと中部電力の合弁)の担当者は、5月30日に開かれた審議会で「コンソーシアム組成は公募前に決めることがほとんどで、案件ごとに異なるパートナーとの応札も考えられる」と説明。「コンソーシアム組成に制約を付すと自由な競争環境が著しく悪化する」と懸念を表明した。

三菱商事エナジーソリューションズも「各企業・事業者ごとに事業開発・運営を行うリソースには限界があるため、応札するかどうかの判断は(各事業者に)委ねられるべきだ」とする。

審議会の桑原委員も「落札制限は適正公正な競争を歪める懸念があるが、その中で入れるだけの合理的な説明が不十分だ」と疑問を呈する。

公募入札ルールの見直し案は近くまとまる見通しだ。日本の洋上風力市場の安定性、公正さに疑念を抱かれかねない見直し案となれば重大な事態だ。機運が高まってきた洋上風力市場にとってブレーキとなりかねない。官民を挙げて急速に推進してきた洋上風力だが、ここにきて雲行きが怪しくなりつつある。

大塚 隆史 東洋経済 記者

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おおつか たかふみ / Takafumi Otsuka

広島出身。エネルギー系業界紙で九州の食と酒を堪能後、2018年1月に東洋経済新報社入社。石油企業や商社、外食業界などを担当。現在は会社四季報オンライン編集部に所属。エネルギー、「ビジネスと人権」の取材は継続して行っている。好きなお酒は田中六五、鍋島。

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