移植医療に朗報!「臓器製造システム」の実力 "ミニ肝臓"で肝不全患者を治療へ

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そこで谷口教授らは発想を転換。「肝細胞」ではなく「肝臓」を作り出すことを目標に据え、胎児内で肝臓が作られるときに起こる細胞同士の相互作用の再現を試みた。

iPS細胞から肝細胞になる手前の前駆細胞を作り、そこへ血管のもととなる内皮細胞、接着剤の役割を担う間葉系細胞の2種類の細胞を混ぜて培養。すると、すべての細胞が48~72時間でボール状に集まってきた。これが網目状の血管構造を持つミニ肝臓だ。

ミニ肝臓をマウスに移植すると、血液が流れ込み、マウス体内に人に特有なタンパク質が分泌され、人の肝臓でしか代謝されない薬物の代謝産物が産生。ミニ肝臓が人の肝臓の機能を持っていることが示された。また、肝不全のマウスに移植すると、30日後の生存率が何もしなかったマウスの約3割に比べて約9割に向上。ミニ肝臓はマウスにおいて顕著な治療効果を発揮した。

膵臓や腎臓の製造も研究中

人での臨床研究は、子どもの肝臓病を対象として2019年をメドに開始する。ミニ肝臓が大量に必要になるため、クラレと量産技術を共同開発中。ほかの企業とも連携して「ヒト臓器製造システム」の整備を進め、臨床研究の準備を行っている。

ミニ肝臓の次のフロンティアの一つは、肝臓以外のミニ臓器への展開だ。現実的なターゲットとして、血糖値を下げるホルモン、インスリンを分泌する膵臓や、腎臓の研究が進められている。

もう一つは、ミニでない丸ごとの臓器を作ること。線維化して細胞が生着するスペースのない肝硬変のような病気や、全体の構造があって初めて機能を持つ心臓、子宮、肺等の病気などは、ミニ臓器では治療できず、丸ごとの臓器の移植が必要となることが多い。この分野は米国のハーバード大学やマサチューセッツ工科大学などに莫大な研究資金が投下されており、世界的にも注目が集まる。

急ピッチで進む臓器研究だが、再生医療の中で、今まさに人への応用が進んでいるのは細胞が主役の方法だ。昨秋には理化学研究所の高橋政代プロジェクトリーダーらによって目の難病である加齢黄斑変性の患者にiPS細胞から作った網膜の細胞の世界初の移植手術が行われた。今後もパーキンソン病や心不全の患者にiPS細胞から分化させた細胞を移植する臨床研究が計画されている。立体臓器が活躍するのはそのさらに先の段階だ。

谷口教授は「複雑な臓器形成は再生医療の中では最も困難なテーマの一つ。だが、重い臓器不全の患者には臓器移植以外に既存の治療法がなく、非常に強い医療ニーズがある」と強調する。肝臓移植の場合、ドナー臓器の待機中に死亡する患者は世界で年間2万5000人超。「究極の医療」として、臓器作りにかかる期待は大きい。

長谷川 愛 東洋経済 記者
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