ワクチン打つとコロナかかりやすい説が眉唾な訳 医学を身に付けた専門家の合理的な議論が必要だ

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私は、このような議論を聞いて暗澹たる気持ちになる。あまりにも議論のバランスが悪いからだ。今回、厚労省が提示したデータからは、医学的に有用な議論はできない。未接種者と2回接種者の比較可能性がないからだ。ワクチン接種者と非接種者は、そもそも背景が違う。このことは、複数の臨床研究で実証されている。

例えば、昨年1月、川崎医科大学の研究チームが発表した論文によれば、ワクチン接種率は高齢者、農村在住者、基礎疾患のある人で高かった。基礎疾患のある人はかかりつけ医がいて、医療機関受診のハードルは低い。彼らのほうが検査を受ける機会が多かったことは容易に想像がつく。

バイアスをどこまで考慮できていたか

東京医科大学のグループは、若年成人、女性、さらに低所得層でコロナワクチン接種希望者が少なかったという研究結果を発表している。医療機関への受診率は、一般的に低所得層で低い。

以上の研究は、基礎疾患がある高所得層は、普段から健康に配慮するため、ワクチンを打つ傾向が強いことを示唆する。彼らは体調に変化を感じると、クリニックを受診し、検査を受ける頻度が多いだろう。この結果、ワクチン接種群で感染者数が高く評価される。これはワクチンが効かないことを意味しない。厚労省の発表は、このようなバイアスが影響していた可能性が否定できない。専門家同士の議論ならともかく、一般人に説明する際には、このあたり細心の注意を払わなければならない。

問題は、これだけではない。オミクロン株が流行の主体となった現在、このような形で感染者数を比較することは、そもそも意味がない。なぜなら、オミクロン株は感染してもほとんどが無症状だからだ。全住民に対してPCR検査を実施した上海では、感染者の95%が無症状だったという。わが国での感染者数は、基本的に症状があり、医療機関を受診した人に限定される。診断されるのは、感染者の氷山の一角だ。こんな数字を比較して、ワクチン接種の効果を議論しても何も言えない。

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