ワクチン打つとコロナかかりやすい説が眉唾な訳 医学を身に付けた専門家の合理的な議論が必要だ

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厚労省の今回の発表から言えることは、2回接種終了から半年以上が経過した状況では、ワクチンの重症化予防効果はともかく、感染予防効果はほとんど期待できないということだ。コロナワクチンは、麻疹や天然痘に対するワクチンとは異なり、インフルエンザワクチンのように、効果は時間の経過とともに減弱することが、国内外の研究から明らかとなっている。インフルワクチンの効果の持続は約5カ月だ。今年4月の調査で、コロナワクチンの2回接種者で感染が多発していたとしてもおかしくはないだろう。

以上の事実から言えることは、追加接種の必要性だ。実は、ワクチン接種群に感染者が多いという観察結果は、イギリスなど海外でも報告されている。これは、観察研究が抱える構造的バイアスを反映しているのだろう。臨床研究の専門家にとって、このような問題の存在は常識だ。だからこそ、世界はワクチンの免疫が低下したことを踏まえて、3回目、4回目と追加接種を進めている。

世界各地から同様の研究は出ていない

ところが、わが国での議論の方向は正反対だ。同じデータからコロナワクチンの効果を疑問視する議論が横行している。もし、コロナワクチンが「抗原原罪」などをもたらすのなら、すでに世界各地から同様の研究結果が指摘されているだろう。

私の知る限り、そのような研究は存在しない。研究者の思いつきに過ぎないであろう極論を、あたかも1つの仮説のように読者に提示するのは適切と言えない。もし、研究者が本当にそのような可能性を考えているなら、根拠とともに『ネイチャー』など専門誌に投稿するのが筋だ。彼らの議論に説得力があれば、『ネイチャー』編集部も掲載するだろう。世界のコロナ対策を一変させる可能性がある貴重な情報だからだ。もちろん、そんなことはありえないだろう。

わが国のコロナ論争では、なぜこんな低レベルな議論が横行するのか。このような頓珍漢な論争は、今回始まったことではない。三密やクラスター対策、PCR擬陽性など、世界では相手にされない牽強付会な議論を繰り返してきた。

今回も、比較可能性がないワクチン接種者と非接種者の感染率を比較し、ワクチン無効論のような暴論を招いた。これでは、何のために、医療現場や患者に膨大な負担をかけ、巨額の血税を投じ、データを収集しているかわからない。コロナ対策で必要なのは、医学の基本を身に付けた専門家による合理的な議論である。現在の厚労省や専門家には荷が重いと言わざるをえない。

上 昌広 医療ガバナンス研究所理事長

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かみ まさひろ / Masahiro Kami

1993年東京大学医学部卒。1999年同大学院修了。医学博士。虎の門病院、国立がんセンターにて造血器悪性腫瘍の臨床および研究に従事。2005年より東京大学医科学研究所探索医療ヒューマンネットワークシステム(現・先端医療社会コミュニケーションシステム)を主宰し医療ガバナンスを研究。 2016年より特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長。

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