官製ワーキングプア解消へ「公契約条例」が広がるが、進まない国での法制化
「官公庁、中でも霞が関の落札価格がひどい。社長も『法律なんて守ってたら一発で倒産する』とうそぶいている」。中央官庁の警備保安業務を担う、ある警備会社の中堅職員は憤りを隠せない。
これまで同業界では、社会保険料や研修費などを加味すると、警備料金は1人当たり時間2000円が相場とされてきた。ところが頻繁な入札で受託会社が入れ替わるたびに、料金は下落。「官公庁では1000円、ひどい場合は東京都の最低賃金を下回る落札価格となっている」(同)。安値落札のツケは現場へと回される。「警備員の多くは社会保険に加入していない。時間外・深夜割増賃金も支払われず、有給休暇も認められない。低賃金のため多くは独身で、ダブルワークを余儀なくされている人もいる」(同)という。
野田、そして川崎へ 首長主導で制定進む
2000年代初頭から顕著となった、一般競争入札導入による国・自治体の公共工事、業務委託の単価下落に歯止めがかからない。その結果、国・自治体業務を担っても低収入で生活できない「官製ワーキングプア」が大量発生した。警備や先に触れた法務局のケースはその典型例だ。
この流れを食い止めるべく、一部自治体が動き始めた。09年9月、千葉県野田市議会は、市発注の工事や委託業務を受託した業者は、市が独自に定める一定以上の賃金を労働者に保障しなくてはならないとする、「公契約条例」を全会一致で制定した。旗振り役の根本崇市長がこの問題を認識したのは数年前。「(この収入で)俺がせがれに大工をやれと言えるわけがない」、市民から告げられた一言がきっかけだ。工事単価下落で真っ先にあおりを受けるのが、市内の中小建設会社であり労働者だ。また業務委託でも急激な落札価格の低下が生じていることが判明した。そうした事態への対処を市長会経由で訴えたが、国は動こうとしなかった。そこで条例化へと踏み切った。
導入後、効果が顕著に表れたのが、時給730円と当時の千葉県の最低賃金水準に張り付いていた清掃労働だ。条例で市の最低賃金を829円としたことで、100円増へとつながった。翌年には職種別賃金の導入など、実効性を一段と強化した。