東ソーが死守した素材、電気自動車向けに開花

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 「LMOは今の正極材の中で、最も安全」とは、ある正極材メーカー幹部の見解。結晶構造が強いので、十分に充電された状態でさらに電荷を蓄えようとする過充電の際に、発火する危険性が最も低いという。

数年前に、ノートパソコンのバッテリーに起因する発火事故が相次いだが、そうしたリチウムイオン電池には結晶構造が弱い正極材が使われていたようだ。

LMOの構造を強固にする原料が電解二酸化マンガン。つまり、EVの生命線である安全性を確保するうえで、不可欠な素材なのだ。

もともとは乾電池向け 日本メーカー2社が撤退

東ソーが電解二酸化マンガン事業を始めたのは1938年。もともとは乾電池向けの素材で、電気自動車用として注目を集めるようになったのは最近のことである。

現在、グループ企業を通じて日本の日向工場(宮崎県)とギリシャで電解二酸化マンガンを年5・9万トン生産。EV向け需要が急速に増えており、「増産は時間の問題」(電池材料部の畠山尚志部長)だ。

参入障壁は高い。電解二酸化マンガンは、アフリカや南米などで採れる天然のマンガン鉱石から精製するが、その過程で大量の鉱滓(こうさい)と呼ばれるくずが出る。日本では産業廃棄物に指定されており、専用の処分場が必要だ。東ソーは東京ドーム1杯分の処分場を確保。今の生産規模で50年分の埋設が可能だ。今後、日本企業が参入するとは考えにくく、世界を見渡してみても、主な企業は南アフリカのデルタ、米国のトロノックスなど10社程度しかない。

今でこそ脚光を浴びるものの、電解二酸化マンガン事業の道のりは平坦ではなかった。「撤退の危機もあった」と宇田川憲一社長は明かす。

かつて日本では、東ソーのほかに三井金属鉱業と日本重化学工業も電解二酸化マンガンを供給していたが、2000年に転機が訪れた。2000年を迎えるとコンピュータが誤作動する可能性があるとされた「2000年問題」に備え、非常用電源向け乾電池需要が急増。乾電池メーカーとともに、電解二酸化マンガンメーカーも大増産に走ったのだ。

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