"中長期視点"経営の壁「過激な短期投資家」対処術 課題解決と利益を両立させるために必要なこと
2人目は、「規制」だ。短期投資家の行動が過激になってきたら躊躇なく諫め、それでも足りない場合はルールをつくり、強制的に守らせるようにする。例えば、現在、強化されつつある金融セクターに対するさまざまな規制がこれに当たる。短期的利益を追求する株主は、「まだスピードが足りない」と不満に思っているが、規制から逃れることはできない。
3人目は、「長期投資家」だ。前の2人に比べると新参者である。長期投資家は、「親亀・子亀・孫亀」の3重構造(前回記事『「持続可能な経営=経済成長は悪」と思う人の盲点』参照)に気づいており、「親亀・子亀との共存」が可能で、持続可能かつ長期的に儲かり続けるビジネスに投資したいと考えている。
著者が2016年に実施した米国・欧州の大手運用機関などへの聞き取り調査によると、早い段階から長期投資に関心を示したのは超富裕層と年金基金だった。
超富裕層は、自己資金を長期的に(代々にわたって)運用したいと考えており、一部の人たちは環境や社会への関心が非常に高い。
こうした超富裕層が「社会・環境にもよい方法で、長期に儲ける」という要請を運用会社に出し、長期的運用を必要とする年金基金や大学の基金にもその考え方が広がっていった(2020年の世界のESG投資残高は35.3兆ドルに達した)。つまり、御者に対して、より長距離を走るために、馬が疲れて走れなくなる前にスピードを落とすよう要求しているわけだ。
年金保有者の潜在的な影響力は絶大
4人目は、「年金保有者」だ。年金基金を通じて株主となっている労働者や一般従業員は、自ら意識しないまま御者台の後部にひっそりと座っている。だが、その潜在的な影響力は絶大だ。世界トップ300の年金基金の運用資産総額は2019年に19.5兆ドルとなり、上位20位までの年金ファンドの資産運用残高は全体の40.7%に達する。
労働者にとって年金資金の運用は、他人より儲けることより着実に受給できることのほうが重要だ。つまり、「大儲けではなく、そこそこ儲けたい」「急がずゆっくり行こう」という価値観の人々が大部分を占めている。しかし、そうした声は、御者にはあまり届いていない。