元防衛相が語る「台湾有事」日本が考えるべき備え 安全保障の実務に詳しい森本敏元防衛相に聞く

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――台湾有事の際、沖縄の空自那覇基地にあるF15戦闘機の数も足りないと思いますか。

那覇基地の2個飛行隊(1個飛行隊約20機)は在日米軍空軍機のエスコートはできるが、戦闘はできない。沖縄には日本の防空を行う必要最小限の戦闘機しかない。日本に最も必要なのは戦闘機ではなく、空中給油機だ。アメリカ空軍が活動するための空中給油能力がないといけない。

もっと厄介なのが、台湾にいる日本人や外国人を日本に緊急避難させるための海上輸送力と、その海上輸送を守る海上警備能力が十分にあるのかということ。先島諸島にいる約10万人の沖縄の人々を本州に避難させるための船舶があるのか。ほとんどない。まだまだ日本は十分な態勢ができていない。

そして、いちばんの問題は、日本とアメリカと台湾の政府担当者が非常事態にどのような協力ができるのか今まで協議したことがないことだ。

――それは台湾が国家ではないためでしょうか。

​いや、日本は中国と国交を回復した時の日中共同声明(1972年9月)で、米中は上海コミュニケ(同年2月)で「1つの中国」、つまり、中国は台湾を中国の一部だと言っている。台湾が政府でもないのに政府間で協議できるはずがない。

――日米では台湾有事を想定したシミュレーションや訓練はできても、台湾は参加できないと。

台湾を入れないと何にもならない。

――日本の安全保障環境は厳しさを増すばかりです。

日本は今、世界の中で中国、ロシア、北朝鮮という3つの最も深刻な軍事脅威を受けている唯一の国だ。日本の防衛力だけで、この3つの脅威に対抗できるほどの防衛力があるかと言えばない。だから、防衛費を増やせという議論になっている。

「聖域なき安保論議」は進むか

以上が森本氏へのインタビューになる。防衛大臣を務めるなど、豊富な実務経験を持つ安全保障のスペシャリストだけに日本が直面するであろう課題を鋭く指摘した。

北朝鮮は核ミサイル開発を強行し続けている。軍拡が止まらない中国も、ウクライナに軍事侵攻しているロシアも、ともに日本周辺での軍事活動を一段と活発化させている。政府は年末までに外交・防衛の長期指針「国家安全保障戦略」など3文書を改定する。日本を取り巻く安全保障環境が急激に悪化するなか、国民レベルで現実を直視した聖域なき安保論議がこれほどまでに求められる時代はないだろう。

高橋 浩祐 米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員

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たかはし こうすけ / Kosuke Takahashi

米外交・安全保障専門オンライン誌『ディプロマット』東京特派員。英国の軍事専門誌『ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー』前特派員。1993年3月慶応義塾大学経済学部卒、2003年12月米国コロンビア大学大学院でジャーナリズム、国際関係公共政策の修士号取得。ハフィントンポスト日本版編集長や日経CNBCコメンテーターなどを歴任。朝日新聞社、ブルームバーグ・ニューズ、 ウォール・ストリート・ジャーナル日本版、ロイター通信で記者や編集者を務めた経験を持つ。

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