元防衛相が語る「台湾有事」日本が考えるべき備え 安全保障の実務に詳しい森本敏元防衛相に聞く
第一のアメリカの意思決定については、中国が台湾統一シナリオを動かす時の様相が問題になる。どういう意味かといえば、中国が武力を行使して台湾を統一しようとした場合、アメリカは大統領の政治的な意思によってアメリカが介入するかどうかを決めることになる。
政治意思はその都度変化するので、条約や協定にあるような約束ではない。アメリカは台湾と条約や協定を結んでいるわけではない。アメリカが台湾を守るというのは、台湾関係法(1979年)というアメリカ議会で成立させた国内政治的な法律上の義務だ。海外に対する義務ではない。
――バイデン大統領は5月23日に日米首脳会談後の共同記者会見で、中国が台湾に侵攻した際にアメリカが台湾防衛に軍事的に関与するかと問われ、「イエス。それがわれわれのコミットメント(関与)だ」と発言したばかりですね。
これは大統領としての政治的コミットメントであり、外国に対するコミットメントではない。台湾は国でもないし、そのようなものは結べるはずがない。一方、日米安保条約上の約束は、同条約の第五条で日本が他国から武力攻撃を受けた場合は、アメリカは憲法上の手続きに従って共通の危険に対処するように行動すると明文化されている。
日米関係において、アメリカ大統領はそのコミットメントを守りますといちいち首脳会談のたびに言ってきている。その点、バイデン大統領の台湾防御に関するコミットメントは、それとは全然違う。国内政治上での自分の決意を言っただけで、条約上のコミットメントを意味するものではない。
中国が考えるベストシナリオとは
一方、中国の側に立ってみると、できるだけアメリカが出てこないシナリオで台湾統一を図りたい。またその際、国際法上、武力を行使しているというシナリオではない形にしたい。
具体的には威嚇や間接侵略、工作員、偽情報を使って台湾社会を大きく混乱させ、台湾の一部に「台湾はもう独立すべきだ」という声が出るように仕向ける。そして、台湾独立を阻止するために中国はやむをえず、台湾を統一せざるをえないのだというシナリオを動かせば、どこにも国際法上の武力行使という行為が含まれない。アメリカも米軍を差し向けるわけにはいかない。
中国はアメリカの干渉を排除しながら、台湾統一を図ることができる。これが中国にとってベストのシナリオだ。
仮にこれがうまくいかなくても、できるだけ妨害工作や間接侵略、サイバー攻撃、偽情報などによって混乱させ、実際の作戦行動は数日の間に決着をつけるようなやり方をすればどの国も介入できない。アメリカが日本にいるアメリカ軍を最小限の活動に仕向けることはできても、アメリカ本土からアメリカ軍を派遣できる時間的余裕もない。
周りの国が台湾を助けられるはずがない。ウクライナとは全然違う。ウクライナには現在33カ国が武器を供与しているが、同様の支援や協力を台湾に行える蓋然性はほとんどない。
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