核拡大抑止に必要とされるのは、同盟国を防衛するために地域に適合したアメリカ軍の核戦力の保持・運用すること、および核態勢と運用の明示を通じて、潜在的な敵対国に対する意図を明確にすることである。同時に、同盟国である日本がアメリカの核拡大抑止の能力と意図を深く理解し、その基本指針や運用への参画を通じて「核の傘」の信頼を高めていくことが不可欠となる。2022年5月の日米国防相会談で「核抑止が信頼でき、強靱なものであり続けるためのあらゆるレベルでの二国間の取り組みが従来にも増して重要」という共同認識が示された理由はここにある。
他方で日米首脳会談では、日米両国のグローバルな核軍縮推進の意志が共有された。中国は依然として、米露の核軍縮が進展していないことを理由に、多国間の核軍縮枠組みに加わる意志を示していない。日本の役割は中国の核戦力の増強に対する日米同盟を基盤とした抑止力の向上とともに、中国の核軍備管理に対する責任を促すことにある。
2021年9月に王毅外交部長は「中国の特色ある大国の軍備管理の理論体系」を掲げ、世界の戦略的安定性、国際的な軍備管理・軍縮システムの強化・整備を挙げている。日本が促すべき第1のポイントは中国にこうした概念を明確化し、具体的な措置として実行を促すことにあるだろう。
日本は中国に自らの核戦力と核ドクトリンの明確化を
第2のポイントは、日本が中国に対して自らの核戦力と核ドクトリンの明確化を促すことである。特に現在まで中国が核兵器の保有数を公表していないことは、これまでは数的劣勢を背景にしていたが、現在は核兵器数を大幅に増強し、運搬手段も多様化している。中国が核戦力の透明化を拒む理由は消失している。こうした透明化措置なくして、軍備管理・軍縮に向けた道筋を開くことはできない。中国が核大国として台頭することが予見されているからこそ、グローバルな軍備管理・軍縮への責任を醸成することが同時に求められている。
日中関係の半世紀において核兵器は重要な意味を持ち続けてきた。1970年代に形成された中国の核兵器をめぐる暗黙の了解は、中国の核戦力増強によって大きく覆されようとしている。こうした中で、日米同盟の核拡大抑止を強化しつつ、同時に中国に核軍備管理・軍縮の働きかけを行う重要性が増しているのである。
(神保謙/慶應義塾大学総合政策学部教授、アジア・パシフィック・イニシアティブMSFエグゼクティブ・ディレクター)
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