原始的メディアだからできることがある--『私のフォト・ジャーナリズム』を書いた長倉洋海氏(フォトジャーナリスト)に聞く


──出向く先に事欠きませんね。

新聞を見ると、民族対立、宗教対立は消えず、世界の見通しは決して明るくはない。地球環境問題も、それだけを見ていると大変だというとらえ方になり、将来に対して悲観的になってしまう。しかし現地に行ってみると、人々は違う国から来た僕を、民族も宗教も違うはずが、どこでも受け入れてくれて、とても別れを惜しんでくれる。そういう人たちのことを思い出すと、世界は決して暗くも悲しくも大変でもなくて、思いを分かち合えるものなのだと意を強くする。

一人で気張ってすべてを伝えようとしなくても、フォトジャーナリストは何人もいて、その中で僕が見たこと、感じたことを大切にして、自分しか撮れないことを撮るべし、とつくづく思う。スクープを競争する時代ではなく、その人しか感じられないものを伝えることで初めて、戦争や対立にしても、多様性や複雑さがはっきり見えてくる。

──フォトジャーナリズムは今、冬の時代といわれます。

カメラ付きケータイが普及して誰もが写真を撮れる。現場、最前線で何かあったときに、たとえば今のエジプトの騒乱でも、ケータイの動画が世界中で見られている。逆にいえば、誰もが一応簡単に撮れることによって、本当にいい写真だと感じてくれる「土壌」が広がっていくのではないか。僕はまったく悲観的ではない。

(聞き手:塚田紀史 撮影:尾形文繁 =週刊東洋経済2011年2月19日号)

ながくら・ひろみ
1952年北海道釧路市生まれ。時事通信社を経て、80年よりフリーランス。紛争地や辺境に生きる人を撮り続ける。主な写真集に『地を駆ける』、『マスード 愛しの大地アフガン』(土門拳賞)、『獅子よ瞑れ』、『サルバドル 救世主の国』、『人間が好き アマゾン先住民からの伝言』(産経児童出版文化賞)。

『私のフォト・ジャーナリズム』
平凡社新書 945円 286ページ

  

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