思春期の心を揺るがす「脱マスク」の意外な盲点 他人の目を意識してマスクを外せない子もいる

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――マスクの着用は感染リスクを考えると必要だったかもしれませんが、弊害もあった可能性があるということですね。

乳幼児の脳は柔軟で順応性がありますし、家庭ではマスクを外して過ごしていたでしょうから、幼稚園や保育園など家庭外で今後マスクを外すことになったとしても、すぐに慣れていく可能性はあります。ただ今後も、影響を注視して見守っていく必要があります。

また乳幼児だけではなく、多感な時期である思春期の子どもたちへの影響も考えなければいけません。ヒトは他の哺乳類に比べて、子ども(乳児期~思春期)にあたる時期がとても長いという事実があります。未成熟な期間が長ければ長いほど、危険回避などで親に依存せねばならず、生存上は不利となります。

他方、環境変化に柔軟に適応できる期間を長く持つ、というメリットもあります。実際、言語や思考などヒト特有の高度な認知機能を担う前頭前野が成人レベルに成熟するまでに、実に25年以上かかるのです。

思春期が不安定なのは脳の構造の変化のせい

明和政子(みょうわ・まさこ)京都大学教育学部卒。同大学大学院教育学研究科博士後期課程修了。博士(教育学)。京都大学霊長類研究所研究員、京都大学大学院教育学研究科准教授を経て、現在、同大学院教授。専門は比較認知発達科学。主な著書に『ヒトの発達の謎を解く』(ちくま新書)などがある

乳幼児期と同じく、思春期も、影響を強く受けて脳の構造が変容しやすい特別な時期です。そのため、うつ病、統合失調症、不安障害などの精神疾患が発症するのは、思春期の開始から青年期の期間に集中しています。精神疾患経験者の50%は14歳、78%は24歳までに発症すると言われています。

思春期に、このようなリスクがなぜ生じやすいのでしょうか。思春期には性ホルモンの影響を受けて、恐怖や欲求、衝動など自分の意思ではコントロールできない感情をつかさどる大脳辺縁系とよばれる脳部位が急激に発達し、数年で完成します。

他方、大脳辺縁系の過活性をトップダウンで制御する役割を果たす前頭前野の成熟には、25年以上かかります。辺縁系と前頭前野の発達のミスマッチがとくに大きくなる時期、それが、思春期特有の心の不安定さにかかわっています。

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