金融緩和政策の拡大と、TPPなど成長戦略を--岩田一政・日本経済研究センター理事長・元日本銀行副総裁《デフレ完全解明・インタビュー第3回(全12回)》
前回のデフレ時よりも日銀は腰が引けている
──日銀の包括緩和は後手に回ったといえますか。
昨年なぜあそこまで円高になったかというと、日米間の金融緩和度合いの違いが大きかった。米国がより強い緩和政策を採れば、円高ドル安になる。しかし、デフレということを考えれば、本来、日本のほうが深刻なはずだ。米国はまだデフレにはなっていない。デフレになっていないのに、あそこまでやった。
日本ではリーマンショックの後、09年3月には消費者物価がマイナスとなっていたが、包括緩和はそのときにやるべきだった。追加としての量的緩和の規模も、リスクの差はあるが、日銀は5兆円、米国は約65兆円(8800億ドル弱)と圧倒的。デフレの深刻度合いを考えれば、日銀は、前回の量的緩和のときよりも、腰が引けているように見える。
──財政政策との連携も必要としています。
金融政策だけでデフレが完全に直るとは私も思っていない。金融政策は、ケインズが『貨幣論』で述べているように、マーケットの実質金利を、短いものから長いものまで、できるだけ低い水準に持っていくことが役割。その一方で、均衡実質金利、つまり自然利子率がマーケットの実質金利よりも低い場合にデフレになるわけだが、この自然利子率を上げるのは金融政策では本来無理。経済の成長率を高め、自然利子率を上げるのは主として政府の役割だ。
現政権は七つ成長分野を挙げているが、三つぐらいに絞るべきだろう。一つ目は、TPP(環太平洋経済連携協定)に代表される貿易サービスの自由化を通じて地域的経済統合を推進し、成長率を高めていくこと。二つ目は、グリーン・グロースを成長戦略として位置づけること。CO2排出量の削減を、成長率を抑制する環境制約ととらえるのではなく、日本が比較優位にある環境技術を輸出することで成長率向上への起爆剤ととらえるべきだ。
三つ目は人材の育成。現政権は雇用重視を明確にしているが、単に雇用の量を増やすのでは不十分だ。今、日本で非正規労働者は労働者全体の約34%だが、若い年齢で非正規から出発すると、なかなかそこから抜けられない。そういう方々の老後の生活が十分に保証されているかというと、現状問題が多い。そのため、非正規の人がスキルアップできるような仕組みを作るべきだろう。