孫社長の一声で急転、地下鉄でメール可能に
「熱き思いさえあればトントン拍子で話が進むということを実感。地下鉄走行中でも通信をという事が実現出来そうです」--。ソフトバンクの孫正義社長はツイッター(簡易型ブログ)で喜びを噛みしめた。
1月20日、孫社長は東京都の猪瀬直樹副知事と会談し、都営地下鉄車内で携帯電話を使えるようにすることで合意。東京メトロも賛同し早い路線では年内にも使用が可能になる見通しだ。さらに2月5日には、大阪市の平松邦夫市長とも会談し、2011年度内に工事を行う方針で一致した。
きっかけは、1月にツイッター上で一般会社員から要望を受けた孫社長が、各自治体の首脳に地下鉄工事の許可を打診したことだった。
スペースに限りがある地下鉄トンネル内のアンテナ設置は、携帯電話会社などで作る業界団体を通じ、共同で行われるのが通常だ。すでに07年と08年に都内の地下鉄で電波測定も実施している。だが、終電と翌日の始発間が約5時間しかない中で、工事時間の確保など実務的な課題が足かせとなり頓挫。その後も遅々として進展していなかったのが実態だ。
そこに、「孫社長が登場してこれまでの経緯や面倒な段取りをすべてすっ飛ばし、トップ会談で一気に話をつけてしまった」(業界関係者)。
パリ、北京などの地下鉄ではインフラが整備済みで、ニューヨークでも年内に工事が予定されている。地下鉄車内の通信環境はもはや世界の標準となりつつある。孫社長の一声で、日本の通信インフラのネックが一つ解消される。
ただ、孫社長にとって喫緊の課題は地下ではなくむしろ地上だ。昨年春に打ち出した「10年度末に基地局倍増」計画は黄信号が灯っている。この計画では、競合他社に比べて脆弱な通話圏を強化するため、年間4000億円の設備投資で、基地局を1年で倍の12万局にする予定だった。だが、用地確保の折衝に手間取り、昨年末時点で7・6万局にとどまっている。
孫社長は3日の決算説明会で「一応予定どおり進んでいる」と報告した。だが、ボーダフォン日本法人を買収した06年にも、基地局倍増計画を掲げて未達に終わった経緯がある。あれもこれもと手を出し、約束が達成できなければ、本末転倒だ。
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(桑原幸作 撮影:梅谷秀司 =週刊東洋経済2011年2月19日号)
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