「社会への違和感」が強いビジネスを生み出す理由 山口周さん×中川淳さん対談(2回目)

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山口:たとえばユーチューブにしても、動画共有サービスの一番手ではありませんでした。ネット環境の向上やスマートフォンの普及が進むまでに、いくつもの動画共有サービスが潰れてきたわけです。昔の携帯電話は動画が28秒しか撮れなかったり、アップロードするにも時間やお金がかかりましたから。その意味で、ユーチューブはタイミングがよかった。もっと遅ければ、後発として厳しい状況になったでしょうからね。

中川:あのタイミングで周さんが「美意識」をテーマにしたのはなぜですか。

山口:みんなが「ロジカル、ロジカル」と口をそろえている状況に対する違和感でしょうね。淳さんが「ライフスタイル」全盛の状況を気持ち悪いと感じたのと同じことかもしれません。

ロジカルに物事を考えることで本当にこの国の強さが回復するのかな、という違和感を抱いたんです。まず世の中の大きな流れに対する違和感があって、「自分はなぜ違和感を持つのか」ということを深掘りしていった先に、「美意識」というキーワードがあったという感じです。最初から「美意識が大事だ」と考えたわけではないですね。

クリティカル・ビジネスの根底は「違和感」

中川:現状に違和感を抱く人と抱かない人がいるのは、何なんですかね。

山口:圧倒的マジョリティーは抱かないんだと思います。でも、何かに違和感を持たないと新しい流れはつくれないでしょうね。

たとえばテスラのイーロン・マスクも、化石燃料に依存していることに対して自動車産業も電力産業も全然動かないことに対する違和感が、その根っこにあるんじゃないでしょうか。自動車は多くの国で重要な基幹産業になっているにもかかわらず、政治にも強い影響力を持つ人たちが化石燃料依存に対してまったくイニシアチブを持って動こうとしない。それに対する憤りと言ってもいいでしょう。

こういう「違和感を持つ力」というのは何によるのかというと、やっぱりこれも「ビジョンを描けるかどうか」だと思います。

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たとえばイーロン・マスクは大学院の卒業にあたって論文を2つ提出しているのですが、1つは「太陽光発電の可能性」で、もう1つは「ウルトラキャパシタの電気自動車への活用可能性」なんですね。つまりここ10年で彼がやっていることは学生時代に描いたビジョンの実現なんです。

ボディショップや無印良品のようなクリティカル・ビジネスもそうです。動物実験に疑問を持たない化粧品会社への違和感、過剰なパッケージやあざとい販促手法に対する違和感が、クリティシズムの根底にあるわけです。

いま存在感を持っているビジネスの多くがクリティカルなものになっているのは、時代や社会に対する違和感を共有できるブランドにお金を払いたいと思う消費者が増えているからでしょう。少なくとも先進国の社会は「安全・快適・便利」という価値は一定の水準で達成しているので、ここから先はそれが消費者にとっての価値になるわけです。

だから、時代や社会に違和感を持てないとクリティカルなビジネスはつくれないし、ブランドとして成功するのも難しいでしょうね。会社がビジョンをつくるというのは、広く共有されるであろう自分たちの違和感を言葉に落とし込んでいく作業なのかもしれません。

(3回目に続く)

山口 周 独立研究者・著作者・パブリックスピーカー、ライプニッツ代表

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やまぐち しゅう / Shu Yamaguchi

1970年東京都生まれ。慶應義塾大学文学部哲学科、同大学院文学研究科美学美術史学専攻修士課程修了。電通、ボストン コンサルティング グループ、コーン・フェリー等で企業戦略策定、文化政策立案、組織開発などに従事。中川政七商店社外取締役。株式会社モバイルファクトリー社外取締役。『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』でビジネス書大賞2018準大賞、HRアワード2018最優秀賞(書籍部門)を受賞。

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中川 淳 中川政七商店 代表取締役会長

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なかがわ じゅん / Jun Nakagawa

1974年奈良県生まれ。京都大学法学部卒業後、2000年富士通入社。02年中川政七商店に入社、08年十三代社長に就任、18年より会長。業界初の工芸をベースにしたSPA業態を確立し、「中川政七商店」などの直営店を全国に約60店舗展開。また「日本の工芸を元気にする! 」というビジョンのもと、09年より業界特化型の経営コンサルティング事業を開始。現在は奈良に数多くのスモールビジネスを生み出し、街を元気にするプロジェクト「N.PARK PROJECT」を提唱、産業観光によるビジョンの実現を目指す。15年「ポーター賞」受賞。「カンブリア宮殿」などテレビ出演の他、講演歴多数。

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