金融政策、財政は手遅れ、FTA進め構造改革急げ--伊藤隆敏・東京大学大学院経済学研究科教授《デフレ完全解明・インタビュー第2回(全12回)》

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団塊世代の退職が転機、今すぐに消費税増税を

--財政出動はすべきでないと。

逆に不安をあおるリスクがある。消費税率は上げていくしかないし、これはつらくても今やるべきだ。なぜなら、今は、消費税増税をしたほうがいいという人が世論調査によると半分いる。しかし、団塊の世代が退職世代になったら、消費税増税に反対する。年金受給者にとってはデフレになって給付水準が変わらないほうがよい。反対が過半数になると政治的に難しい。世代間の公平性から考えて年金給付水準を下げてもいいわけだけれど、それは政治的にはまず通らない。でも消費税なら高齢者もお金持ちも払う。高い物を買えばそれだけ税金も高いから、世代間でも世代内でも公平だ。

--金融政策は効きにくく、財政出動もすべきでないとなると……。

構造改革しかない。だから、構造改革はつねに進めていくべきことだが、今やそれしかないという面もある。人口問題やFTAに乗り遅れたということも全部絡んで、潜在成長率が下がっている。外国人労働者を増やし、FTAも進めて、国内投資を促進する必要がある。あと課税ベースの拡大は重要だ。企業が外へ出て行ってしまったら、取り残されるのは失業者と政府だ。

--納税者番号制度は必要でしょうか。

当然だ。消費税を導入する場合にも、食品をゼロ%にするといった税率を変えるにも、インボイス方式を採用するにも必要。本当は、20年前に実現していないといけなかった。

そもそも、やるべきことはみんなわかっているはず。審議会とか研究会とか推進本部とか、もう今さらやめてくれという感じ。すでに自民党政権時代に答えは全部出してある。「次の選挙が終わったら」、「次の政権では」と言い続けて放置しているだけだ。

--民間企業としてはどのような手を打つべきなのでしょうか。

企業は今やキャッシュをたくさん持っている。何に使うのか。投資に使うか、賃金を増やすなり、配当を増やすなりしてくれれば消費につながるわけだが、計画経済じゃないから増やせと言ったって仕方がない。インセンティブを持たせなくてはならない。

企業としては、人材のグローバル化は必要だ。海外で通用する人材を育てないと。日本企業は海外進出しても経営が難しいという問題を抱えている。

■デフレを理解するための推薦図書■
『人口負荷社会』 小峰隆夫 著/日経プレミアシリーズ
『金融危機とプルーデンス政策』 翁 百合 著/日本経済新聞社
『金融危機のミクロ経済分析』 細野 薫 著/東京大学出版会

いとう・たかとし
1950年生まれ。一橋大学経済学部卒。ハーバード大学大学院経済学博士。一橋大学経済研究所教授、東京大学先端科学技術研究センター教授を経て、04年から現職。ハーバード大学客員教授、IMF調査局上級審議役、大蔵省副財務官などを歴任。
撮影:今井康一

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