金融政策、財政は手遅れ、FTA進め構造改革急げ--伊藤隆敏・東京大学大学院経済学研究科教授《デフレ完全解明・インタビュー第2回(全12回)》
その後は人口問題が全体を縮めさせる状況になってきた。われわれのような団塊の世代が12年以降は退職世代になって年金の受け取りが始まる。一方、今の38~45歳くらいの団塊ジュニアが子どもを産まず、出生率が低下し、第3次ベビーブームは来なかった。状況は決定的にまずくなる。これも10年前からわかっていたのに、有効な対策が打たれなかった。
まず、今からでもやるべきことはFTAやTPP(環太平洋経済連携協定)といった関税自由化を急いで、あと法人課税の引き下げもやって、企業に日本国内にとどまってもらうこと。一方、農業政策は規模を拡大して生産性が上がるようにする。今の戸別補償の設計では小規模でも得をするので、設計の見直しが必要だ。
--金融政策は必要ですか。
金融政策は本来、非常に効くのだが、手遅れ感で難しくなっている。10年前は皆が「今はデフレだけど、2~3年でインフレに戻るんじゃない?」と思っていたけれど、今は「今後、もっとひどいデフレになるかもしれない」と思っている。人々のインフレ期待がデフレ期待に変わり、消費や投資に対して冷却効果を持っている。
10年前にインフレ目標を導入し、リスク資産を買うという信用緩和もやっていたら、インフレは起きていたと思う。今は相当難しい。5%ぐらいのインフレを1回起こせばようやく2%ぐらいに上がるという程度ではないか。ただ、5%のインフレを起こすというのは政治的に難しい。
--インフレはコントロールできますか。
もちろんできる。今やどこの国でも中央銀行が独立しているので、コントロールはできている。引き締めることはいくらでも可能だ。
--日本の物価下落は相対価格の変動であり、一般物価の下落ではなく、貨幣現象ではないとの声もあります。
つねに相対価格の変動はある。問題はやはり、平均価格としての物価が継続的に下落していることで、そうした指数の動きを見て、賃金や投資が決定され、それがまた、物価下落圧力となる。デフレで物価が全体的に下がることは、一見問題がないように見えるけれど、そうではない。マイナス金利にできないために、実質金利が上がってしまう。財政の面では、デフレでも税率が変わらなければ、自然減税が発生する。政府の実質債務もどんどん重くなる。フロー、ストックの両面で財政を厳しくしている。それに、年金の設計には下方硬直性がある。