映画『マトリックス』で見えた日本企業の敗因 新しいものを排除しようとする限り成長はない

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そしてWhyを考え続けることは、現状を疑い、ときには否定し、不完全さを受け入れてアップデートし続けることだともいえます。

ところが、日本社会には「自分たちが間違えていることなどあってはならない」「自分たちは完全である」という前提に立ち、その完全性を担保するために新しいものを排除しようとするところがあります。

この結果、システム全体が時代遅れなものになってしまったというのが、日本が世界における競争力を失っていった大きな背景ではないかと思います。言い換えれば、日本はWhyを考えることをせず、「すでにある完璧なものを守る」ことに腐心し、オールドファッションなシステムや社会体制に対して疑いを持つこと、アップデートし続けることに失敗してしまったのです。

私が高く評価している企業の1つが、ソフトウェアテスト事業を手掛けるSHIFTというIT企業です。創業経営者の丹下大さんに会って衝撃を受けたのです。私は「この人はヤバい」と思いました。日本の40代の経営者の中でナンバーワンに近い能力を持っていると確信しました。

IT業界には、広告業界と並ぶ根強い「中抜き構造」があることはよく知られています。元請の会社に下請の会社がたくさん連なっており、場合によっては6次下請まで存在していたりするのです。なかには、業務を下請けにパスするだけで利益を持っていく会社もあります。丹下さんは、その業界構造に疑問を抱き、中抜きをやめるべきだと考えています。

日本の競争力を下げている給料の安さ

彼は、日本の問題は生産性が低く、そのために給料が低いことだといいます。給料が低ければ自分がやっている仕事に対する意義を感じにくく、結果的に仕事に魅力を感じられず、会社に対するロイヤリティも低い。それが、日本の競争力を下げている――。

私も、丹下さんの言う通りだと思います。この状況を変えるには、生産性を上げて給料を上げなければなりません。そのためにDX(デジタル・トランスフォーメーション)が必要だというのが彼の主張です。

SHIFTがDX化を推し進めて生産性向上に寄与すれば、IT業界で給料を引き上げられるだけでなく、当然、DX化を発注したお客さまの会社も生産性が上がって給料が上がるはずです。

そのような価値を提供することによって、根っこから日本の競争力を高めるため、自分は存在しているのだと丹下さんは言います。「そのためにSHIFTは大きくならなければならない」と。「だから従業員の給料もどんどん上げていきたい、成長もしていきたい」と言い、実際に2014年の上場以来、売上高を毎年5〜6割も伸ばし続けているのです。

DX化で成長するというIT企業は山ほどあります。しかし「中抜き構造を変えたい」とは普通は言いません。それは根本的に業界の秩序を乱すことだからです。

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丹下さんがやろうとしているのは業界の構造改革だともいえます。やり遂げられれば、働いている人が高い給料をもらうことができ、お客さまは安く発注できるようになり、SHIFTは収益力の高い会社になるでしょう。

丹下さんの話を聞いていてわかるのは、彼がWhyを考え続け、自分が何をやるべきなのかを明確にしていることです。

経営者に知性とパワフルな実行力があり、高い目線を持ってばく進しながら成長し続けている会社はなかなかないと思います。業界もこれから5年、10年とまだまだ追い風でしょう。

重要なのは、成功しそうなのはどんな人なのか、そのパターンを知り、そのような人に賭けることができるかどうかなのだと思います。

藤野 英人 投資家。レオス・キャピタルワークス代表取締役会長兼社長CEO&CIO

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ふじの ひでと / Hideto Fujino

1966年富山県生まれ。国内・外資大手投資運用会社でファンドマネージャーを歴任後、2003年に独立しレオス・キャピタルワークス株式会社を創業。とくに中小企業株および成長株の運用経験が長い。「お金」や「投資」を通して、株式会社や日本社会、世界経済のあるべき姿を模索し続けている。教育にも注力しており、東京理科大学上席特任教示、叡啓大学客員教授、淑徳大学地域創生学部客員教授も務める。著書に『投資家が「お金」よりも大切にしていること』(星海社新書)、『投資家みたいに生きろ』(ダイヤモンド社)ほか多数。

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