人にスルーされる言葉と心に残る言葉の決定的差 「論理的に説明する能力」以外に重要な事がある

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わたしは、アクィリウスがかつて執政官や軍の指揮官だったこと、元老院から功績を称えられたこと、小凱旋式でカピトリウムの丘を登ったことを忘れていなかった。

それほど立派な人物がすっかり打ちのめされ、意気消沈し、悲しみに暮れ、窮地へ追いやられている姿を見たら、聴衆の同情を誘おうとするよりも先に、わたし自身の胸が、彼を不憫に思う気持ちでいっぱいになってしまった。

わたしは、喪服に身を包んだこの哀れな老人を、法廷へ呼んで立たせた。そしてあのような行動を取ったわけだが、それは弁論術の教えとして習ったからではなく、行き場のないやるせなさに襲われたからだった。

この件についてクラッススは褒めてくれたのだが、つまりわたしは、アクィリウスの服を引き裂いて、(国のために戦ったときの)傷の跡を見せたのだ。

その瞬間、陪審員たちの心が激しく揺さぶられるのを、わたしははっきりと感じた。アクィリウスの応援に来ていたガイウス・マリウスが涙を流していたので、わたしの言葉にはいっそう悲壮感が漂っていたことだろう。

わたしはマリウスに向かって、かつての同僚をどうか救ってほしい、軍の指揮官として力を貸してほしい、と繰り返し訴えた。

そうやってマリウスに懇願しているあいだ、そして、すべての神々、すべての市民、すべての仲間たちに訴えかけているあいだ、わたしは胸を引き裂かれるような苦しみに、涙を流さずにはいられなかった。

もし、このときわたしが発した言葉の一つひとつから、痛切な思いがあふれていなかったなら、聴衆の同情を誘うどころか、とんだ茶番だと思われたことだろう。[『弁論家について』2巻194─196節]

「一般論」は最強の根拠

話し手が自分で主張の根拠を考える際には、古代においても「一般論」あるいは「共通認識」がよく使われていた。
これは、誰もが共通して持っている意見や、一般的な論理の組み立て方、(主に政治や倫理に関して)自明とされる考えのことを指し、論理的な証明をする場合や、人柄や感情を使って聞き手に心理的に働きかける場合に、議論の前提となる。
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