対ロシアで注目、インド「非同盟」の複雑な立場 大国化するインドはこれからどこに向かうのか

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インドは準大国的な国家ではあるものの、中国やパキスタンなどと緊張関係にあって、近隣地域の情勢をコントロールする十分な力を持たない。そのためいずれの陣営にも偏らず、状況や環境の変化に柔軟に対応できるよう外交的選択肢を増やしてきたのだった。

特に中国との関係は頭の痛いところだ。3月に王毅外相がインドを訪問したが、王毅外相はインドに先立ってパキスタンとアフガニスタンを訪問し、要人と相次いで会談して友好関係を強調した。その足で王毅外相はインドを訪問したのだった。

パキスタンとアフガニスタンは、インドからすればともに対立関係にある隣国だ。したがって王毅外相の一連の外遊は、インドから見れば嫌がらせや脅しにも映るだろう。しかも、良好な関係にあるロシアがウクライナ戦争をきっかけに中国への依存を強めている。今後、中国がインドに対してさまざまな圧力をかけてくることは目に見えている。

その対抗策としてインドがQUADに積極的に対応することは合理的な判断だ。しかし、日米豪という海洋国家が問題にしているのは東シナ海や南シナ海の領土問題など中国との「海の争い」である。中国と領土問題という「陸の争い」をしているインドがQUADに参加したからといって、安全保障の面で十分な力になることがないのも事実だ。

一方、ロシアが衰退を早め中国に接近していることや、その中国がますます南アジア地域に進出しようとしていることも不安材料である。国際社会から注目を集めて引く手あまたという状況のインドは、実はかつてないほど苦しい立場に置かれているのだ。

5月に東京で開催のQUADは重要なポイント

しかし、いつまでもこうした受動的な地位に甘んじてはいないだろう。「大国途上国」インドの潜在的な可能性は大きい。それを最も理解しているのがインド自身だ。各国がインドを自分の側につけようとしているのも、遠くない将来、インドが大国化するであろうことを見越してのことだ。

そういう意味で5月にも東京で開かれるQUADの首脳会合は重要な意味を持つ。ウクライナ戦争への対応だけでなく、その後に長く続く米中対立の時代に、西側諸国がインドと協調的な関係を構築し維持できるか。インドをめぐっても世界は重大な局面に来ている。

薬師寺 克行 東洋大学教授

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やくしじ かつゆき / Katsuyuki Yakushiji

1979年東京大学卒、朝日新聞社に入社。政治部で首相官邸や外務省などを担当。論説委員、月刊『論座』編集長、政治部長などを務める。2011年より東洋大学社会学部教授。国際問題研究所客員研究員。専門は現代日本政治、日本外交。主な著書に『現代日本政治史』(有斐閣、2014年)、『激論! ナショナリズムと外交』(講談社、2014年)、『証言 民主党政権』(講談社、2012年)など。

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