密かに進む、新幹線「神奈川県新駅」の実現可能性 地域で40年以上の運動、リニア開業は追い風か
しかし、全線の複線化は用地確保のコスト面などから現実的ではなく、実現可能性がありそうな対策としては、相模線には行き違い施設のない駅が全18駅中7駅(香川・宮山・門沢橋・厚木・入谷・下溝・上溝)あり、これらの駅施設を行き違いできるよう改修することが考えられる。県および沿線市町・商工会で構成される相模線複線化等促進期成同盟会によれば、この対策を行った場合、運行本数は5本/時が可能になり、所要時間は10~15分短縮されるが、整備費用は約172億円かかるという。
この172億円をどう評価するかが問題となるが、1988年に開業した東海道新幹線掛川駅の建設費が約135億円、2032年に開業予定の東海道線(在来線)の村岡新駅(仮称)の建設費が約150億円と見積もられている。つまり、輸送改善と新駅建設をセットで考えるならば、倉見新駅は通常の新駅建設費用の倍額を要する計算になる。
これだけの建設費用に見合う新駅利用者数が確保できるかが第2のハードルだが、新駅設置促進同盟会によれば「開業時に約1万1100人/日、開業10年後に約1万3500人~1万4200人/日」と試算されている。
しかし、この数値には、潜在的利用者の分布範囲として小田急電鉄新百合ヶ丘駅のある川崎市麻生区などかなり広範な範囲までが含まれており、また、「開業10年後の利用者数は相鉄いずみ野線の倉見までの延伸や神奈川東部方面線が完成しているなど、考えうる好条件がすべて整った場合の数値」(神奈川県県土整備局)であるという。いずみ野線延伸は慶応大湘南藤沢キャンパス(藤沢市遠藤)付近までの第一期区間が優先的に検討されており、倉見までの延伸はかなり先になりそうであることや、コロナによる移動需要の変化なども考慮すれば、楽観的な数値と見なければならない。
観光地の玄関口となりうる強みも
では、倉見新駅の利用者を増やすアプローチがほかにないかといえば、そんなこともないはずである。たとえば今後、時代に合致した特徴的な産業を相模線沿線に集積させるといったことが考えられるが、現在、同線沿線市町の多くが「さがみロボット産業特区」に指定され、慶応大湘南藤沢キャンパス(SFC)が「ライフイノベーション国際戦略総合特区」に指定されているなど、倉見周辺にはその下地がある。
また、倉見新駅は、開業すれば距離的には大山や江の島・鎌倉などの神奈川県を代表する観光地への新幹線最寄り駅となる。二次交通をどう整備するべきかなどの課題はあるものの、こうした立地特性は強みと言える。
新幹線の潜在需要を掘り起こし、地域活性化につなげることが、前述した交通政策審議会答申の意図するところである。立地特性等のプラス要素を十分に生かすことができるならば、倉見新駅誘致の可能性は格段に高まるはずだ。
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