NY在住の禅僧が説く「心がスッと軽くなる方法」 「悩みが尽きない」のは人として当たり前の事だ

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ここで一度、平らな場所にコップを静かに置いてみましょう。

かき混ぜられて渦を巻いていた泥水は、待っている間に少しずつ波が静まっていき、落ち着きを取り戻します。そして、時間が経つとともに、重たいものは下へと沈んでいき、コップの中身がはっきりとわかるようになります。

このかき混ぜられた泥水こそが、私たちの心の状態です。

私たちの日常はいつなんどきも感情とともにあり、手放すにしろ執着するにしろ、湧き上がってくる感情に対処することを繰り返しています。つまり、私たちの心は、かき混ぜられたコップの中の泥水のように混沌としているのです。

見えなかったものが見えてくる

いつも泥水のままで視界がクリアになる瞬間がなければ、自分の本心がどこにあるのか、何を大切にしたいと考えているのか、湧き上がった感情の何に反応して心が乱されているのか、わからなくて当然です。だから、いったんコップを置き、心を鎮めることが必要なのです。

実は、このコップを置くという動作こそが、坐禅です。坐禅のやり方はいくつかありますが、基本となるのは、坐禅という字のとおり安定した土(大地)の上に座ることです。

まずは座ってください。そして、コップを置くのと同じように、心を落ち着けます。心の波が穏やかになってくると、コップの中身が水と土だったのだとわかるように、今いちばん何が気がかりなのか、自分が何を思っているのか、何を心配しているのか、といったことがわかってきます。

さらに、コップの中身をのぞき込んでみましょう。すると、泥の中に混じっている枯葉や小さな虫の存在にも気がつきます。日常では見落としていた、自分の本当の気持ちに出会うようなイメージです。心が混沌として泥水のときには見えなかったものを見ようとすること、これが、坐禅です。

私は授業や講演の際、坐禅を身近に感じていただきたくて、このコップのたとえ話を引き合いに出すことがよくあります。

かつてこの話を聞いた女性から、最近になって「あのときコップの話を聞いてから、とても気持ちがラクになったんです」と打ち明けられました。

ふと不安がよぎったとき、イライラしたとき、悲しいとき、強い感情が押し寄せてきたときに「大丈夫。私は今、泥水の中にいるだけ」と思うことで気持ちが落ち着き、感情の暴走を防げるようになったといいます。感情のコントロールはできる。それが真実だと教えてくれるエピソードです。

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今は情報の流れるスピードも速く、すぐに答えを求めようとしてしまいがちですが、まずは静かにコップを置いてみましょう。そして、答えが出るまでそのままのんびり待つのです。

坐禅がすべてを教えてくれるわけではありません。坐禅でできることは、自己と会話すること。それによって心が整理され、他者とのつながりを感じ、自分自身や自分の人生を大切にできるようになります。それまで少し時間がかかるかもしれません。ちょっとずつでよいので、続けることが大切です。

答えになかなかな出会えないときは、泥水の土の分量が多いのかもしれない、そんなふうに考えて、コップの中身がクリアになるのを気長に待ちましょう。今ほしい答えが、あとになってわかることもありますよ。

松原 正樹 東京大学大学院情報学環客員教授

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まつばら まさき / Masaki Matsubara

千葉・富津市のマザー牧場に隣接する臨済宗妙心寺派佛母寺住職。アメリカのコーネル大学東アジア研究所研究員。ブラウン大学瞑想学研究員。ベストセラー『般若心経入門』の著者で名僧の松原泰道を祖父に持つ。コーネル大学でアジア研究学の修士号、宗教学博士号を取得後、カリフォルニア大学バークレー校仏教学研究所、スタンフォード大学HO仏教学研究所を経て、現在に至る。グーグル本社で禅や茶道の講義をするなど、マインドフルネス界からも注目を集めている。アメリカと日本を行き来しながら、禅とマインドフルネスの橋渡し的存在として、国籍や人種、宗教を問わず人々の「心の救済」にあたっている。

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