関関同立の大学生が「壊れるまで」バイトする事情 母も祖母も高卒で「大学に行く」感覚がなかった

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「ドン底で、なにもかもしんどいし、涙が止まらない。普通の状態じゃない日が増えました。なにもやる気が起きなくて無気力というか。頑張ったところで、誰かが頑張っていることを認めてくれるわけじゃないし、メンタルが虚無感に侵食されるというか。いろいろうまくやっているつもりだったけど、膨大なストレスを受けていたんだと思います」

それが2カ月前のことだ。理解のない家族から始まって、お金の不安に追われ続け、無理に過酷な仕事をしたことでメンタルが壊れてしまった。どれだけ追い詰められても母親には頼れない。家庭や経済的な事情は友達にも話せない。一人で抱え込んでずっと頑張ってきた。しかし、限界がきてしまった。

「いろんなストレスを実感しないように意識して、自分ではうまくやっていると思っていたけど、そんなことありませんでした。いくらか貯金ができたので仕事を辞めて大学のカウンセリングルームに行きました。人に話すと楽になることを知りました。体調は、だんだんよくはなっています」

母に一番してほしかったのは…

家族、孤立した人間関係、高額な学費、つねにお金の心配をする不安な日常、過酷なアルバイト――さまざまなことに疲弊して倒れてしまった。そのなかで一番の理由はなんだろうか。聞いてみると「母親だと思います」と言う。

母親は48歳、団塊ジュニア世代の女性だ。すぐ近くに住んでいるが、娘が限界を超える厳しい生活をしていることは知らない。

「母親は私がどうやってやりくりしているのか知らないし、自分が一切金銭的な援助をしていない状態でも、なんとなくうまくやれてるのねって思っています。大丈夫?って言葉もありません。大学生って気楽でいいわねって、言っていたこともありました。こっちはそれどころじゃないのに」

日本学生支援機構の奨学金受給率は全学生の半数近くに達し、毎年行われる東京私大教連の調査で、自宅外通学者への仕送りは過去最低の月8万4200円(2020年調べ)だった。大学生の貧困は深刻で、真帆さんのような学生は決して珍しくない。恵まれた環境で生きた親世代、祖父母世代は、いまの若者たちの厳しさを理解していない。だから無理に早い自立を促し、学費や学生生活費の給付を拒否する親が後を絶たないのだ。

「母親の世代の人たちは、目の前に苦しんでいる若者がいてもわからないだろうなって思います。大学生の貧困がテーマになった記事って増えたじゃないですか。それなのにそこらへんに苦しい大学生がたくさんいるってことを理解できない。現実として実感できないというか」

ひとり親の母親は、給付をしたくてもそのお金はない。どうすればよかったのだろうか。

「うちの母はお金がないので具体的にはなにもできない。それはわかっています。母に一番してほしかったのはやっぱり経済的な支援だけど、それができないなら、最近大丈夫なの?って言葉をかけてほしかった。母は私がどれだけ追い詰められていても、たぶんうまくやっているんだろうって感覚です」

卒業単位をすでに取っている。あとは後期の授業料の支払いができれば卒業はできる。3年のときにメンタルを壊すまで仕事をしたことで、大学卒業はできそうだ。真帆さんはあと少しだけ休んで、体調を整え、それから卒業後の進路を考えるつもりだという。

本連載では貧困や生活苦でお悩みの方からの情報をお待ちしております(詳細は個別に取材させていただきます)。こちらのフォームにご記入ください。(外部配信先では問い合わせフォームに入れない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でご確認ください)
中村 淳彦 ノンフィクションライター

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なかむら あつひこ / Atsuhiko Nakamura

貧困や介護、AV女優や風俗など、社会問題をフィールドワークに取材・執筆を続けるノンフィクションライター。現実を可視化するために、貧困、虐待、精神疾患、借金、自傷、人身売買など、さまざまな過酷な話に、ひたすら耳を傾け続けてつづけている。著書に『東京貧困女子。』(東洋経済新報社)、『崩壊する介護現場』(ベストセラーズ)、『日本の風俗嬢』(新潮社)、『名前のない女たち』シリーズ(宝島社)など多数。Twitterアカウント「@atu_nakamura」

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