少年院の子はモンスター?元法務教官が見た光景 「非行」という仮面の下にある少年たちの素顔
一方で、複雑な生い立ちを経た彼らの大人に対する不信感の深さは想像を超えるものがあります。しかし、後に述べるように、少年院に入院してからの彼らは、出院まで指導してくれる法務教官(以下「教官」という)をはじめとする大人との信頼関係が築かれていくことによって、気弱な心情を正直に言い表すことができるようになります。そして「人を信じてもよいのかもしれない」とポツリポツリと語り始め、温かい眼差しを向けてきます。
ここで、ある15歳の中学生の少年が出院する日に職員の前で話してくれたお礼の言葉を紹介します。「ここに来て、初めて大人の本気に出会え、初めて愛を知り、15年間の中で一番幸せでした」と。少年をして「愛を知り」と言わしめたこの言葉には、少年院の教官が情熱を持って少年の更生に心血を注いできたことが象徴的に示されています。
「非行」という仮面の下にあるもの
2018年9月に政府広報室が実施した「再犯防止対策に関する世論調査」によると、非行や犯罪をした人の立ち直りに対して、協力したいと「思う」が54%、「思わない」が41%と、あまり差はありません。
「思わない」の主な理由はつぎの通りです。「どのように接すればよいかわからない」(45%)、「自分や家族の身に何か起きないか不安」(43%)、「かかわりを持ちたくない」(36%)、「具体的なイメージがわかない」(25%)などです。少年院という壁によって、非行少年の素顔が見えにくいのはしごく当たり前かもしれません。
ですが、36年間彼らと接してきた私から見れば、「非行」という仮面の下には、生きづらさを抱えた自尊感情の低い少年たちがおり、「大人は信じられない」という言葉の裏側に愛情に飢えた心情を抱えていること、「頭が悪いから」と繰り返す彼らの本音には、学びへの渇望があることを知っています。
また、過ちを犯した彼らは、加害者である前に社会によって生み出された被害者的側面があり、率直に「助けてください」というSOSを出すことができない不器用な生き方しかしてこられなかったのです。